029 起業家にとって最も大切なリソースを教えてくれた28歳の女の子

突然ですが、みなさんは「小島由香」という28歳の女の子をご存知ですか?もしご存知なければ覚えておいた方が良いと思います。おそらく、あっという間に誰でもが知っているスーパー起業家になっているでしょう。「28歳の女の子」と書くと、差別的な表現に見えるかも知れませんが「28歳の女の子」という形容がピッタリな女子です。

 

話は変わりますが、皆さんは、起業家(イノベーター)にとって、最も大切なリソースは何だと思いますか?ヒト、モノ、カネ、情報、時間と、経営には多くのリソースが必要ですが、最も大切なリソースは何でしょうか?やっぱり何をするにも先ずは「お金」という意見も聞こえてきそうだし、必要な人脈(ネットワーク)という方もいるでしょう。そう考えると答えの難しい問題です。

 

その問題に対するひとつの答えを、小島由香ちゃんは提示してくれました。彼女は、目の動きだけでコンピューターを操作できる “視線追跡型ヘッドマウントディスプレー”「FOVE」を開発した、株式会社FOVEの代表取締役社長です。10代の頃はゲーム好きの” 腐女子”で、新潟高等学校からお茶の水女子大学に進学しました。この時点で、彼女にはお金も、同じ学部で共に学んだ学友や人脈といったリソースもなかったでしょう。そして、大学卒業後は、ソニー・コンピュータエンターテインメントに入社し、約4年ゲームプロデューサーとして「サルゲッチュ」などの有名タイトルに携わったそうです。しかし、自分の中で温めていた企画が社内の事情で頓挫し、どうしても形にしたいという思いが湧き、退社して新たな道を進むという選択を選んだそうです。その企画が「FOVE」につながる「バーチャルキャラクターとの繊細なコミュニケーション」というアイデアでした。ソニー・コンピュータエンターテインメントを退社した彼女は、東京大学のインキュベーションラボで”FOVE”のプロトタイプの開発を進めて、ついにプロトタイプの完成を成し遂げました。

 

そんな過程でひとつのエピソードがあります。彼女は、ある大手電機メーカーが研究開発中の部品を手にいれるべく、その大手電機メーカーの公式ウェブサイトの「お問い合わせフォーム」からメールを送ったそうです。すると意外にも早い段階で”偉い人たち”から返信があったそうです。このエピソードを知った時、僕は起業家(イノベーター)にとって最も大切なリソースはコレだと感じました。その時点の彼女には、ヒト、モノ、カネ、情報、時間と、経営に必要なリソースが全てあったわけではなく、あったのは「ポジティブな心理」だけではなかったのでしょうか?

 

ある特定の目標に対して、人がどれくらい意欲的に行動するかを表した指数を、心理学では「目標勾配」といいます。たとえば、親が赤ちゃんを離して「おいでおいで」とやれば、赤ちゃんは嬉しそうにハイハイをして向かってきます。最初はゆっくりでも、親に近づくにつれてスピードがアップします。つまり、人は目標が手に取れるくらいに近づいた時に「あと少しだから頑張ろう」と意欲を増します。このことを「接近行動強度」といいます。そして、目標に向かっていく意欲の度合いに対して、マイナスに働く「目標達成できなかった時のリスクを回避したいと思う度合い」のことを「回避行動強度」といいます。

 

この接近行動強度と回避行動強度を立正大学 心理学部 斎藤勇 教授は著書「あまり人とかかわりたくない人のための心理学」で「ラブレターを書き、それを好きな女の子の家のポストに直接届けにいく」というシチュエーションで次の通り説明しています。

 

『いざ自分の家を出て、女の子の家に向かうが、道すがら「突然、こんな手紙を書いて、変に思われないだろうか?」とか「彼女が僕のことを好いてくれるわけがないし、嫌われるどころか、笑い者になるだろう」という不安が頭をよぎる。目標となる女の子の家に近づくにつれ不安は募り、女の子の家に着き、ポストが見えても手紙を入れずに、そのまま通り過ぎてしまう・・・つまり目標の手前に来て、回避行動強度が爆発的に高まってしまったのである。このように接近行動強度も回避行動強度もゴール寸前で一気に飛躍する。それは、最初から回避行動強度と隣り合わせの目標を設定するからそうなる。「〜しなけれなならない」「〜にならなければならない」という目標の描き方は、たいていそうだ。だから最初から「成果」を確認できる、自分にとって実現可能なことから始めていくべきなのである。そうしたプロセスを経て成長していけば、いずれ「今できそうにないこと」だって射程距離に入ってくるだろう。』

 

小島由香ちゃんは「成果」を確認できる、自分にとって実現可能なことから始めただろうし、何より回避行動強度が低く、接近行動強度が高かったと想像できます。もしも、皆さんがイノベーションを起こしたいと思っているなら、「成果」を確認できる、自分にとって実現可能なことから始めることをお勧めします。

 

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