002 愛一工業 株式会社 代表取締役 愛智 直行(あいち なおゆき)
名倉 おはようございます!今朝は池袋から御社の最寄駅までやってきました。急行でも約40分くらい乗っていましたから、正直「遠いなぁ」と感じていました。しかし愛智さんの会社は、確か海中のお仕事って聞いていましたが、なぜこんなに海から遠い場所にあるんですか?
愛智 ははは(笑)おはようございます!やっぱり遠いと感じましたか?うちは海中海底機器のエンジニアリング会社なんですけど、海のない埼玉にあります(笑)。特に最近では話題の海底の資源調査や、海底掘削などで使う海中ロボットの設計製作が多くなってきました。また、海底ケーブルって世界の海に張り巡らされているんですけど、それを海底に敷設する工事用機械、それに使う器具などを作っているメーカーなんです。良くわからないでしょ?(笑)。でも、同業界の会社が近所に3社もあって、この辺りではそんなに珍しくないんです。もともと弊社は以前東京神田に事務所があり、小さいころよく遊びに行ったのを覚えてます。私も逆に都心に出ると遠いなぁ~と思っています(笑)。
名倉 そうなんですか?もともとは都内で起業されたんですか?
愛智 創業のお話をすると、祖父の愛智恒夫が戦中に海軍で働いていた様です。そして、戦後間もなくの1946年(昭和21年)に、海底ケーブル敷設関連の設計を始めたことがきっかけでした。その8年後に愛智工業株式会社として設立しました。ですから、創業当時から恐らく海洋関係の人脈はあったわけです。でも、今の埼玉県川越市に工場を移転したのは最近で、2000年(平成12年)になってからなんです。
名倉 ということは創業70年ってことですね、それはスゴい!
愛智 どうなんでしょう(笑)。祖父が創業し、父が引き継ぎ、私で三代目なんです。その間、海中機器などを作る仕事は一貫して行ってきましたが、私が社長に就く頃から海中海底工学の研究開発に重きをおくようにして、少しずつですが業務を拡大してきました。
名倉 海中作業機器から海中海底の研究開発へとフィールドを広げてこられたわけですが、技術的に異なるスキルが必要ではないですか?
愛智 確かに異なるスキルが必要ですが、弊社のエンジニアの中にはそもそも全く違う分野のエンジニアもいて、しかもMotoGPクラス(2輪モータースポーツの最高峰)などのシビアな業界で、スキルを身につけてきた優秀なエンジニアが、海中エンジニアとして大きなポテンシャルを持っていたりするんです。先端技術は意外にも共通項が多いと思わされていますね。海も陸も実は一緒な技術が多いんですよ。
名倉 僕はお仕事柄多くの経営者様からお話を聞く機会が多いですが、業績が好調な会社は例外なくイノベーションを起こせる優秀な社員さんがいらっしゃいます。それでも、キッチリと本来主要であった海洋関係の仕事を優先して続けてこられたことは素晴らしいです。
愛智 海洋関係の仕事だけを優先して続けてきたわけではありませんが、創業70年という長い歴史の中で、他社にはないノウハウやスキルを育んでこられたから、お客様のご信用とご支持を得続けてこれたのだと思います。それと、私自身、海と海洋工学技術が大好きなんです。過去に数ヶ月船上で生活した経験も度々ありますが、機械に没頭しているとほとんど船酔いをしません。でも、台風などに遭遇し船が大揺れなときは、さすがに船酔いすることがありますけどね(笑)。下船後「もう船には乗りたくない」なんて思ったりしても、数日が過ぎると、また不思議と船に乗りたくなる。それくらい船って特殊な環境で特殊な人間関係だし、とても緊張するけど、大自然の中で自分たちの技術と自然とが直接対峙できる大変魅力的な環境でもあるんです。
名倉 海が好きになった理由が、そんなところにあるんですね?
愛智 ご存知だと思いますが、私たちが住む地球上の70%は海なんです。ですから地球全体で見ると私たちが住む陸の方が、むしろ希少というかマイノリティーなんです。さらに、世界で一番高いエヴェレストは約8,800mですが、世界で一番深いマリアナ海溝は水面下10,000m以上あるんです。日本の側には大きな海溝が連なっていて、東京から半径わずか数百キロのところに富士山から海溝まで高低差11,000mもあり、世界中のメトロポリスで、こんなに高低差があるのは、ここ東京だけなんです。つまり、私たち人間が見ている陸地は地球の一部だし、ものすごく高いと思っているエヴェレストですらマリアナ海溝には及んでいません。私は海洋上で、船上のモニターを通して海底や海中を見続けることがありますが、何日間もその作業を続けていると、どちらが本当の地球の姿なのかよく分からなくなってきます。
名倉 なるほど、「好き」というより「好きで当然」って感じなんですね。
愛智 そうですね、受注した業務だけでなく、学会に出かけたり近くの東洋大学 工学部や東京海洋大学の研究室、それに学生と産学一体で研究活動を行ったりもしています。
名倉 それは素晴らしい!でも、リサーチ(研究)ではなかなか利益が得られないでしょうね?
愛智 そこが悩みの種なんです。産学一体の研究活動だけでは、利益は期待できません。中小企業の場合、研究開発費を捻出するのも一苦労です。そこで、産学一体となって研究を取り組むことはコスト的にも有利なのですが、一方で利益を上げている部門から不満な声も聞こえてきます。でも、私たちの仕事は海洋、海底研究があってこそ成り立っているのでリサーチ(研究)も絶対に必要なんです。
名倉 それは難しい問題ですね!
愛智 「ビジネス(仕事)とリサーチ(研究)の融合」と言葉にすると簡単ですが実際には難しい。私にも子供がいますが、子供たちの未来を考えると、今以上リサーチ(研究)に注力して、未来に貢献したいとも思います。だから、ビジネス(仕事)とリサーチ(研究)を融合した「新たなカタチ」を創造したいと考えています。もちろん、大きな利益を得て従業員に報酬として還元することは経営者の仕事ですが、企業は社会にも還元する義務があると思っていますし、そうしなければ存続できないとも思います。弊社がなぜ70年この仕事を続けて来れたのか?と考えると、社会への還元をし続けてきたからだろうと感じています。
名倉 確かに、いくら利益率が高いビジネスでも70年続けようと考えると、社会から必要とされる存在にならないと存続はできないですよね?
愛智 ですから、今後はビジネス(仕事)だけでなく、リサーチ(研究)で得た情報なども広く発信して行きたいと考えています。例えば、現在の弊社のホームページは業務に限定した内容になっていますが、今後は、もう少しアカデミックな内容も盛込んだサイトにして行きたいと考えています。その際は名倉さんのお力もお借りしたいと考えています(笑)。
名倉 ありがとうございます、それは嬉しいです(笑)。それでは、このあたりで締めていただきたいと思いますが、最後に御社の今後の目標など伺えればうれしいんですが、いかがでしょうか?
愛智 そうですね、今後というわけではなくこれまでも続けて来ましたが、仕事に向かう姿勢として、お客様のご要望を最優先していきます。そして、リサーチ(研究)などから得られた既存データや、頭の中のイメージをどんどんカタチにして行きたいと考えています。単に拡大することを目標にするのではなく、ビジネス(仕事)においてもリサーチ(研究)においても未来に残せる「なにか」を作っていきたいと考えています。
名倉 優しくて、それでいてご自身を含む社会全体を俯瞰して見られている愛智社長らしいお言葉で締めていただいたところで、本日はありがとうございました。
愛智 こちらこそ、遠方まで(笑)おいでくださり、ありがとうございました。
企業情報————————————————————–
愛一工業株式会社
代表取締役 愛智 直行(あいち なおゆき)
設立年月 1954年9月
本社・工場 埼玉県川越市笠幡2716-1
TEL 049-239-5881 FAX 049-233-2378
ホームページ http://www.aiichi.com