007 サプライズパーティーはなぜ嬉しいのか?
約二年前に、とある大学院の夏季MBA講義のティーチング アシスタント(教育補助業務従事者)を務めさせていただいたことがありました。その講義の受講生さんから「同窓会をやるので来てください」と連絡がありました。しかもその会場が日本料理の老舗「なだ万」さんで、その料理が懐石料理とのことで、浮かれた気持ちで参加させていただきました。
実際にそのお料理は、予想を上回る美味しさの連続でした。そして、懐石料理も終盤にさしかかったとき、幹事さんから「それでは会の締めに一言お願いします」とお願いされました。何も言葉を用意していなかったので、気の利いたことはいえませんでしたが、そんな時、僕の顔写真が大きくプリントされたゴージャスなケーキが、目の前に運ばれて来ました。ケーキに添えられたチョコレートプレートの上には「祝!名倉真悟さん首席御卒業」の文字があり、予想していなかった展開に、驚くやら、嬉しいやらで、頭の中はしばらく大混乱でした。そしてロウソクを吹き消す頃には、ようやく頭の中の整理もでき、このサプライズの感動の大波が押し寄せてきました。
このように、嬉しいサプライズは、生涯忘れないくらいの大きな感動があるものです。では、サプライズがなぜこれほど嬉しいのか?じつは、その瞬間に「ゲイン・ロス効果」という心理効果が働いているからなんです。この「ゲイン・ロス効果」のゲインとは自分の中の評価が高い状態を指し、ロスとは自分の中の評価 が低い状態を指し、その差が大きければ大きいほど喜びや悲しみが増大するという理論です。
この「ゲイン・ロス効果」は、今回のようなサプライズパーティーの場面だけではなく、裁判の際の検察側の求刑と弁護側の最終弁論の提示方法に大きく影響していると、宮城学院女子大学 油尾聡子 助教授や金城学院大学 北折充隆 教授は論じています。今回の場合を例に考えると、サプライズを知る前の僕の心の中の評価が、「祝!名倉真悟さん首席御卒業」と書かれたケーキの登場で、急激に評価が上がり、大きな差が生じたわけです。でも、もっと喜ばそうと思えば、サプライズを公開する前の評価をさらに下げれば、その差はさらに大きくなり喜びも大きくなるというわけです。
例えば、誰かにプレゼントを渡す時に、本当のプレゼントを渡す前に、つまらないものを先に渡して「なんだ、こんなモノなの?」と思わせておいて、一段落ついた頃に本当のプレゼントを渡すと、ゲインとロスに大きな差が生まれるわけです。これを数式にすると次の通りです。
EV = GA – LA
( EV=Excitement Value , GA=Gain Assessment , LA=Loss Assessment )
では、この「ゲイン・ロス効果」を営業や小売の場面に取入れるとすれば、どんなことが考えられるのか?例えば、買うと決意した後に「今ならお値段を下げます」と告知されたり、「自分のことは覚えていないだろう」と思っていた店員さんに不意に名前を呼ばれたりと、いろいろと考えることができます。よく「特別感」なんていい方をする場合がありますが、じつはそれも「ゲイン・ロス効果」なんです。あなたのお仕事にどのように応用できるか考えてみてください。