032 じつは「茹でガエルの法則」はデタラメだったという衝撃

突然ですが「茹でガエルの法則」(boiled frog)という概念をご存知ですか?カエルをいきなり、熱湯に入れるとすぐに飛び出しますが、冷たい水に入れて徐々に水温を上げていくと、温度の変化に気づかず、やがて暑い湯の中で死んでいくということはご存知の方が多いと思います。

 

ドイツ ケーニヒスベルク大学の医師であり生理学者であったフリードリッヒ レオパルド ゴルツ(Friedrich Leopold Goltz)は、神経生理学や大脳の機能について研究を行っていました。特に解剖学的な知見による実験を繰り返し、脳を切除したカエルを用いた実験の結果を論文『Contributions to knowledge on functions of the nervous system in frogs.』として、1869年8月に「2匹のカエルを用意し、一方は熱湯に入れ、もう一方は緩やかに昇温する冷水に入れる。すると、前者は直ちに飛び跳ね脱出・生存するのに対し、後者は水温の上昇を知覚できずに死亡する」と報告しました。

 

さらに、ケンブリッジ大学で生物学や人類学を研究する思想家グレゴリー ベイトソン(Gregory Bateson)教授は、2つの実験を行い「沸騰した熱湯の中にカエルを入れると、カエルは熱さにびっくりして熱湯の中から跳び出し死なず、冷たい水の中に入れ、ゆっくりと下からあたためると、カエルは冷水が徐々にぬるま湯となり心地よいので、飛び出そうとせず、その心地よさにひたっていると、しだいに温度が上がっても逃げ出せず、最後には“ゆでガエル(boiled frog)”になって死んでしまった」とフリードリッヒ・レオパルド・ゴルツと同様の報告をしました。

 

ところが、細胞生物学者でハーバード大学、ハワード·ヒューズ医学研究所のダグラス A.メルトン(Douglas A. Melton)教授は、1995年に、アメリカのビジネス誌「Fast Company」に投稿した記事の中で「熱湯に入れれば飛び出さずに死んでしまうし、冷たい水に入れれば熱くなる前に飛び出してしまう」と「茹でガエルの法則」に対してネガティブな概念を報告しました。

 

さらにオクラホマ大学の爬虫両生類学者マーク ハッチンソン(Mark Hutchinson)教授は、2002年なって「その伝説は全てが間違っている。動物学の臨界最高温度 (Critical thermal maximum)調査で、多くの種類のカエルを調べており、手順として1分間に水の温度を華氏2度ずつ上げるが、温度があがるごとにカエルはますます活発になって温度の上がった水から逃れようとした」と回答しました。つまり、最新の報告によると「カエルは茹で上がる前に逃げる」ということになります。

 

確かに、そういわれてみれば逃げるだろうと思えますが、フリードリッヒ レオパルド ゴルツが1869年に「茹でガエルの法則」を報告してから、じつに133年間、その法則は正論として語られ、生理学や生物学の分野だけでなく、経営学や組織学においても「徐々に悪化する環境において、その変化に気づくことなく失敗に至る」と比喩されるようになりました。

 

世界的に見れば、ギリシャ債務危機問題や中国の景気懸念による株価暴落などの問題があるものの、日経平均株価は依然二万円以上を維持し、東京オリンピックとパラリンピックのエンブレムの発表など、2020年の東京オリンピックの話題が連日報道されています。現在の日本は「茹でガエルの法則」の法則でいうところの「ぬるま湯となり心地よい状態」なのかも知れません。

 

ところが、日経平均株価のトレンドとは逆行するように、世の中の多くの消費財やサービスに対する価格は下落トレンドにあるものも少なくありません。例えば、スマホ(携帯電話)の通信料金ですが、総理府の発表によると、2005年を100とすると2012年で63.5だそうです。また、矢野経済研究所の発表による市場規模の報告によれば、2007年の国内アパレル総小売市場規模が102,848億円だったのに対して、2015年は90,970億円に縮小しているそうです。このように、皆さんのお仕事で扱っている商品やサービスの価格が下落しているとか、市場規模が縮小しているというお話も少なくないでしょう。

 

つまり、利益や売上が減る環境にあるにも関わらず、お給料や賞与は年々上がって欲しい、オフィスもキレイで大きなところに移りたいと、置かれている環境とは逆行した希望をもってしまう。つまり「心地よいぬるま湯の温度が上昇している」といえるのかも知れません。もし、そうであれば逃げなければなりません。利益や売上を上げることは企業努力によって可能ですが、市場価格が下がっている、市場規模が縮小しているという環境下では至難の技です。「茹でガエルの法則」はデタラメでしたが、温度が上昇し続けるお湯に浸かっていれば、いつかは茹で上がってしまいます。日経平均株価が二万円を超え、明るいニュースも聞こえる今だからこそ、それぞれの仕事を見直すべきではないでしょうか?

 

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