021 大好きな人が大好きになってくれるかも知れない二人旅の効果

先日、プロディューサーの”おちまさと”さんと、長崎県佐世保市でお会いする機会がありました。もちろんお仕事の場面でしたが、おちさんは5歳のお嬢さんと御一緒でした。しかも、5歳のお嬢さんは場慣れした雰囲気で、おちさんが話している姿をデジカメで撮影したり、ウンウンとウナズキながら話を聞いていて、さながら秘書のような様相でした。なぜ5歳のお嬢さんが同行されているのかお聞きしたところ「子供が父親と行動するのは、小学生低学年くらいまでなので、それまでは出来るだけ娘と二人旅(出張)をして関係を深めたい」とお話されていました。納得できる話ですが、実際に5歳の娘を同行して出張できるというのは大物故のなせる技だと感心しました。

 

おちさんと5歳のお嬢さんに限らず、二人旅をすれば関係が深まることは、誰しも経験のうえで周知していることですが、その理由を説明することは難しいですよね?以前「017 とっても残念”じゃない” ◯◯大学◯◯講師」でご説明した「ザイアンスの法則」が影響していることは想像できますが、それに加えて「吊り橋理論」が影響しているのではないでしょうか?

 

この「吊り橋理論(Suspension Bridge Effect)」とは、カナダの心理学者、ドナルド G ダットン(Donald.G.Dutton)とアスール P アロン(Arthur.P.Aron)によって、1974年に発表された「SOME EVIDENCE FOR HEIGHTENED SEXUAL ATTRACTION UNDER CONDITION OF HIGH ANXIETY(高不安環境下における性的魅力の高揚に関するいくつかの証拠)」で実証されたとする学説であり、この実験では、カナダの2つの橋の上で18歳から35歳の独身男性159名の被験者に対して行われました。一つの橋は普通の安全な橋で、もう一つは、木製の狭いつり橋で、傾き、揺れ、手すりも低く、いかにも不安を煽りそうな橋でした。 被験者に橋を渡ってもらい、橋の途中でインタビュアーが、被験者に「心理学のクラスで、景色が創造的表現に及ぼす影響の実験をしている」と告げ、 いくつかの短い質問に答えてもらった後、写真に基づいたドラマチックなストーリーを書いてもらいました。 被験者159名中、90名がインタビューに答え、インタビューの最後に「時間がある時に実験について詳しく説明しますので電話してください」と言って紙の端を破り、インタビュアーの名前と電話番号を書いて被験者に渡しました。実験は、女性インタビュアーと、男性インタビュアーの両方で行われましたが、電話番号を受け取った割合は、安全な橋もつり橋もほぼ同程度で、女性インタビュアーの場合は約75%、男性インタビュアーの場合は約30%でした。 しかし、電話番号を受け取った被験者の内、電話をかけてきた割合は、女性インタビュアーの場合のみ、有意な差が見られました。 さらに、安全な橋では13%の被験者からしか電話が無かったのに対して、つり橋では50%の被験者から電話があったそうです。

 

さらにこの論文では、他にも2種類の実験を行っています。強い恐怖や不安を刺激するつり橋という場所では、 女性インタビュアーにより魅力を感じた男性被験者が多いことがわかり、強い恐怖や不安という感情が、異性の性的魅力を高揚していることを示しました。この実験はつり橋という特殊な環境での実験ですが、必ずしもつり橋である必要はなく、例えば、ジェットコースター、お化け屋敷、 地震後、試験の前後、親戚や友人の事故や入院後などが考えられます。

 

しかし「吊り橋理論」は単なる実験結果に過ぎないとネガティブな意見も沢山報告されています。”恐怖によるドキドキ”が、”恋によるドキドキ”だと錯覚している。つまり、単なる帰属錯誤であるという意見も多く、吊り橋理論=帰属錯誤であれば、吊り橋を渡ることで嫌いになる可能性もあるということになりますが、例えば、中央大学 理工学部 人間総合理工学科 応用認知脳科学研究室の檀 一平太 教授らは、講義の中で「吊り橋理論」を肯定的に論じておられるそうです。

 

お話を戻して、「ザイアンスの法則」と「吊り橋理論」からすると、おちさんの「5歳のお嬢さんと二人旅をすれば関係が深まる」というのも説明ができます。

 

ところで、この「吊り橋理論」は、恋愛テクニックとして用いられることが知られ、映画「スピード」の中でのキアヌ・リーブスとサンドラ・ブロックの台詞にも使われていましたが、その後の研究では、意外にも商品の販売にも似たような効果があると発表されました。カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学の研究チームは、被験者らにホラー映画「リング」を見せながら調査を行い、人は恐怖を感じるシーンを見た時には、手に持っているコカコーラのような見慣れた商品に安心感を覚えることが分ったそうです。この研究で、恐怖は商品に対する愛着を増大させ、そしてそれは、例え商品を飲んだり食べたりしなくても、見るだけでも作用するという結果が得られたそうです。そう考えると、いろいろなビジネスのシーンに応用できそうですね!あなたのお仕事に「吊り橋理論」がどのように活かせるか検討してみてください・・・

 

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