063 フラッグシップカンパニーとリーディングカンパニーの違い

コンサルティングの仕事をしていると、ビジョンを文章化する作業を依頼されることがあります。そもそも「ビジョン」って一体なんだろう?という疑問も湧いてきます。ビジネスでは「目指す会社の未来像」として語られることが多いですが、ビジョン(VISION)を辞書で調べると、視力・視覚・画像・映像とあります。つまり可視化(見える化)されていることが前提だと言えるのではないでしょうか。

 

「事業を通して社会に貢献する企業」や「明るい未来をつくる会社」といったビジョンを掲げる企業を見かけることがありますが、これらのビジョンが可視化されているビジョンと言えるでしょうか。僕には「社会に貢献する」とか「明るい未来」をビジュアルとして説明することは困難なので、このようなビジョンを掲げる企業に対しては、可視化したビジョンに発展させることをお勧めしています。

 

ところで、弊社では可能な限り「一業種一社」とのお取引をするように心がけています。その理由は、お取引させていただく企業を「日本一の企業」にすると考え、プロモーション計画を立てるためです。同じ業種でいくつものクライアント様とお取引をすれば、クライアント様同士で、日本一を目指すというカニバリゼーション(cannibalization)が生まれる可能性がでてくるからです。

 

「日本一の企業なんて夢みたいなこと言うな」と言われることもありますが、僕の言う日本一の企業とは、売上や利益や社員数などの企業規模だけのことを言っているのではなく、限られたサービスのクオリティーが日本一と言った意味で、例えば「日本一ありがとうを言われるお店」を目指すと言ったイメージです。

 

特に僕が好きなビジョンが「◯◯業界のリーディングカンパニーを目指す」と言うものです。そう言うと、クライアント様から「◯◯業種のリーディングカンパニーを目指す」と言うのは、ちょっと風呂敷を広げ過ぎじゃないですか?と言われます。でも、ここで考えていただきたいのが「リーディングカンパニー」と言う言葉の概念です。

 

リーディングカンパニー(leading company)とは、一定の業界で主導的地位にある企業であると表現されると同時に、先進的企業や業界の牽引役と言ったイメージで使われる場合も頻繁にあります。つまり、一定の業界で日常的に行われていないサービスや、それまでなかった商品や用途を開発すれば、その瞬間から、リーディングカンパニーと言う資格があると僕は考えています。

 

では、多くの方がイメージするリーディングカンパニーとは、どう言う企業なのか。おそらく売上や利益や社員数などの企業規模が日本一の企業ではないでしょうか。そのような企業のことは、フラッグシップカンパニー(flagship company)と言うのが正解ではないでしょうか。つまり、フラッグシップカンパニーとは、一定の業界で最も規模の大きい企業のことであり、リーディングカンパニーとは、業界内で先導する役割に立つ企業であると、僕は定義しています。

 

そこまで説明しても「そう言われても、やっぱり弊社がリーディングカンパニーと言う言葉を語るのは気が引けます」と言われることもあります。その場合は、別の言い方を考えますが、残念なことにそうなればなるほど、ビジョン本来に必要とされる可視化が弱くなっていきます。

 

ところで、アメリカの心理学者であるロック ショウ サーリ レイサムが、1968年に提唱した「目標設定理論」と言う概念があります。この概念は、目標という要因に着目して、モチベーションに及ぼす効果を探ることを目指した理論でした。その理論には以下の3つが論じられています。

 

① 具体的で困難な目標があると、目標がない場合や、あったとしても「ベストを尽くせ」をいう抽象的な目標の場合より、高い業績が得られる。

 

② 目標にコミットメントがあると、その目標が高いほど高い業績が得られる。

 

③ 金銭的インセンティブ、意思決定への参加、フィードバック、またはその結果の把握といった変数は、具体的で困難な目標の設定そのコミットメントにつながる場合にのみ、業績に影響を及ぼす。

 

つまり目標は、その達成に向けて関心と行動を方向づけ(選択)、活力をかきたて(努力)、努力する時間を引き延ばし(持続)、適切な戦略を立てるよう個人を動機付けする(認知)ことに効果がある。*1と論じています。

 

この理論から、目標は高い方が望ましいと言えますから、企業のビジョンでは「◯◯業界のリーディングカンパニーを目指す」と言ったように、ちょっと風呂敷を広げ過ぎじゃないかと思われるくらいで良いと僕は考えています。

 

ビジョンの可視化が弱くなればなるほど、組織への浸透は弱くなり、同時に業界に与えるインパクトも弱まります。自社のビジョンを決定することは、矯正されるべきではないし、制限を受けるべきものではないはずです。まずは経営者が大きな夢を語らないことには、いつになっても目指す企業にはなれないのではないでしょうか。経営者には、ぜひ大きなビジョンを語っていただきたいと僕は考えています。

 

*1:ロック・ショウー・サーリ・レイサム(1987)

 

063 フラッグシップカンパニーとリーディングカンパニーの違い