067 めざせ!スモールマーケット&スモールメディア
研究員として所属している研究チームで、マーケティングの担当者をさせていただいていますが、その研究チームの研究で明らかになったことは「メディアは小さければ小さいほどコンバージョンに繋がりやすい」と言うことです。
小さいメディア、つまり「スモールメディア」と言う言葉の定義について、公な定義はないようですが、マスメディアの反意語として、小さい規模のメディアという意味で使われることが多いと感じています。
この研究チームで行った研究によると、配布数の多いチラシより、配布数の少ないチラシの方が効果があることが判りました。具体的に言うと、広範囲に向けた新聞の折込チラシより、町内会の回覧板によって配布されたチラシの方が、読んだ後に行動に繋がった率が高かったのです。
確かに、自分自身に置き換えてみると、TVのCMで「今すぐ申込み!」と伝えられるより、町内会の回覧板で「今すぐ申込み!」と伝えられた方が、自分に関係が深いような気持ちになります。さらに、最もスモールなメディアである手紙であれば、100%に近い確率で読み手に行動を促すことができます。
マスメディアが、もてはやされた時代は「大勢の人が支持している=良い」と判断されていましたが、個性を尊重する現在では「大勢の人が支持している=普遍的なだけ」と言う解釈に留まっていると感じます。ブログやSNSなどのスモールメディアが、TVなどのマスメディアに対抗するようになったことも、このような理由からでしょう。
話は変わりますが、先日、オークションにビデオカメラレコーダーを出品しました。そのビデオカメラは、珍しいモノというより、セミプロはよく使う「ベストセラー機」と言うモノでした。ですから競合する出品も多く、比較対象が多数ありました。
そこで、スモールマーケットを狙って、そのビデオカメラレコーダーに最適だと思われる高品質レンズと、長時間録画が可能な高スタミナタイプリチャージャブルバッテリーパックをセットして出品することにしました。
この時点で考えられる出品方法の選択肢は、ビデオカメラレコーダーと、高品質レンズと、高スタミナバッテリーを、セットで出品する方法と、それぞれを個別に出品する方法です。それぞれ2点づつ持っていれば、どちらの方法で出品する方が高価格で落札されるかを実験することが可能ですが、各1点づつしか持っていなかったので、今回は3点をセットで出品しました。
それぞれ個別に出品した方が、ターゲットとなる対象は多そうなので、今回のようにセットして出品するのは、あえて少ないターゲットを狙う戦略になります。「このビデオカメラが欲しかった」「このレンズが欲しかった」「このバッテリーが欲しかった」と言う人が多いことは想像できますが、「このビデオカメラに、このレンズに、このバッテリーが欲しかった」と言う人は少ないでしょう。
では、なぜレンズとバッテリーをセットで出品したかと言うと「セットにすると競合がいなくなる」からです。つまり、もしこのセットが欲しいと考えている人がいたとすれば、その人は他の選択肢がなく、このセットを落札するために積極的にオークションに参加する必要があります。
この出品の理由は、STPを用いて考えると考えやすいです。この”STP(Segmentation・Targeting・Positioning)理論”は、マサチューセッツ工科大学出身で、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院SCジョンソン特別教授であるフィリップ コトラー(Philip Kotler)教授が提唱した、効果的に市場を開拓するための概念です。
STPを端的にご説明するのは難しいですが、僕なりの解釈は「PM(positioning map)を作れ!」と言うことです。このビデオカメラのケースで言うと、単にビデオカメラ単体で出品した場合、縦軸に価格、横軸に中古品としての程度といったPMが考えられます。そして、そのPM上にはいくつもの競合が存在します。
その中で落札してもらおうとすると、①落札価格を安く設定する。②詳細な商品説明や綺麗な画像、あるいは配送料をこちらが負担するなどのサービス面を強化するなどの方法が、考えられます。
ところが、ビデオカメラレコーダーと、高品質レンズと、高スタミナタイプバッテリーをセットで出品する場合のPMを考えると、競合が少なくなります。つまり、この商品を探している人がいれば、選択肢がないので、売り手の望む価格設定ができます。ただしこのセットを欲しい人が、どれくらいいるかを考えなければなりません。
もし、このセットを欲しい人がいなければ落札されませんし、このセットを欲しい人が少数なら競り合うこともなく安価に落札されてしまいます。重要なことは、どこにでもある商品でないこと、そして、それを求める人がいることです。この欲しい人が少ない市場が”スモール マーケット”の概念であり「ロングテール理論」や「ブルー オーシャン戦略」に近い概念です。
多くの商品やサービスの情報が溢れる現代ですから、マスマーケットを狙った戦略で行き詰まりを感じたら、スモールマーケットを狙った戦略で、スモールメディアによる告知を試されることをお勧めします。