107 商品やサービスを売りたいなら、その前に◯◯◯を売ってください
4月21日、テレビショッピングでおなじみの“ジャパネットたかた”の高田明元社長が「熊本地震 被災者支援プロジェクト」と称し、「充電式電池」や「携帯ラジオ」など、購入した視聴者がいざというときの備えになるものばかりを販売し、同日の放送で取り扱った商品の売上を全額寄付すると言うニュースが話題を呼びました。
しかし、その約3ヶ月前の1月15日「事実上最後のテレビショッピング番組」として、最後の出演をされていました。そして、その舞台裏を2月16日放送の『ガイアの夜明け』(テレビ東京)で放送されました。
軽快なプレゼンテーションで、商品ではなくユーザーへのベネフィットを伝えて行く、でもその前にその商品を購入すると、これまでのライフスタイルがどう変わるのか?ユーザーがイメージできるように実践的に説明をしていました。また、経営者としてこれまで決裁権を委譲することなく経営者自身で決定してきました。
このように書くと、別のカリスマ経営者のことのようです。そう、スティーブ ジョブズ(Steven Paul “Steve” Jobs)のことのようにも聞こえます。つまり、高田明元社長は「和製スティーブ ジョブズ」といっても良いのかも知れません。
ここまで読んでいただくと、タイトルの「商品やサービスを売りたいと思うなら、その前に◯◯◯を売ってください」の◯◯◯には「ベネフィット」や「ライフスタイル」が入るのかと思われる方も多いでしょうが、商品の機能より顧客のベネフィットを伝えるというのは、これまでのマーケティングでも語られてきた古典的な方法です。
ところで、消費外部性理論や企業内部組織論に関する研究を行っていたアメリカの理論経済学者のハーバード大学 ハーヴェイ ライベンシュタイン(Harvey Leibenstein)教授が、1950年に発表した論文『Bandwagon, Snob and Veblen Effects in the Theory of Consumers’ Demand(消費者需要理論におけるバンドワゴン効果、スノッブ効果、及びヴェブレン効果)』で提唱した消費外部性理論のひとつ「スノッブ効果(Snob Effects)」という概念があります。
これは、他人と同じものは消費したくない、他人とは違うものが欲しいという心理が作用し、入手困難であるほど需要が増加し、一般化・大衆化してくるにつれ需要が減少する効果のことです。”ジャパネットたかた”の番組では、数量や日時を限定した販売や、そもそも同番組でしか購入できない商品だったりと、スノッブ効果を巧みに応用した販売方法が行われていました。
それだけでなく、”ジャパネットたかた”には更に大きな秘めた魅力があります。ヒトは自分と向合う相手に対して、会話もしていない状態から「暗黙の性格観(implicit personality theory)」という信念を無意識のうちに抱くことを、1954年にアメリカの教育心理学、認知心理学、文化心理学者のオックスフォード大学 ジェローム シーモア ブルーナー(Jerome Seymour Bruner)教授が発表しました。暗黙の性格観は別の言い方をすれば「先入観」のようなものです。
その「暗黙の性格観」の状態から、いかにして顧客の信頼感を得るか?その方法として効果的なのが「解放性の法則」といわれている概念を利用する方法です。「親近効果」というのも同様の概念です。
ヒトは相手のプライベートな情報を知ると、相手に親近感を感じ、拒否や否定がしづらくなるという心理作用をいいます。当然のお話ですが、プライベートな情報を知っている営業マンと、全くプライベートな情報を知らない営業マンがお二人いた場合、どちらの営業マンから商品を買いたいかということです。
高田明元社長は1月15日のテレビショッピング番組のラストシーンで、息子の高田旭人社長を紹介しました。これは台本にはなかったようです。その時の模様を観ると、親子が共にリスペクト仕合いとても良い関係に見えます。これこそが「解放性の法則」を利用した方法だといえます。
高田旭人社長については、この時に初めて観たというユーザーの方も多かったかも知れません。この時点でユーザーの方が抱く感情に「初頭効果」という心理作用が働いています。
ヒトは相手を見た瞬間、1秒から6秒の間に相手の印象を決定付け、その時に持った印象を長く持ち続けるという傾向があります。これは、アメリカのゲシュタルト心理学者で、実験社会心理学の開拓者のひとりだったスワースモア大学ソロモン アッシュ(Solomon Asch)教授が、1946年に行った実験の結果を基にした概念です。
彼は「① 知的なー勤勉なー衝動的なー批判的なー頑固なー嫉妬深い ② 嫉妬深いー頑固なー批判的なー衝動的なー勤勉なー知的な」と、異なる形容詞を順に提示し印象にどのような影響を与えるかという実験を行いました。①と②は、言葉を逆の順序にしただけですが、① のほうが良い印象を与え、その後も好意的に受け入れられるという結果になりました。これは、「知的な」や「勤勉な」という一般的に良いイメージの言葉が先に提示されたためです。
その前提で、高田明元社長は「ウィンザー効果(Windsor Effect)」という心理効果を巧みに利用しています。ウィンザー効果とは、第三者を介した情報や噂話の方が、直接伝えられるよりも影響が大きくなるという心理効果のことをいいます。
「ウインザー効果」は、ロマノネス アーリーン(Romanones Aline)著の自伝的スパイ・ノンフィクション小説「Countess spy(伯爵夫人はスパイ)」の登場人物であるウィンザー公爵夫人が、この小説の中で「第三者の褒め言葉がどんなときにも一番効果があるのよ、忘れないでね」とあり、この公爵夫人の名前に因んで名づけられたそうです。
事例としては、製品やサービスの良い点を「お客様の声」や「モニターの感想」などの型で、広告やパンフレットで活用し第三者の満足度を伝えることによって、製品やサービスに満足している人が他にも多数いるのだろうという想像を誘発したり、SNSやブログなどのCGM(Consumer Generated Media)を利用し、クチコミ効果を狙って間接的に製品訴求をする方が、直接的な製品訴求をするより顧客が利害関係を感じにくくなり、広く浸透すると考えられています。
高田明元社長の場合、高田旭人社長のことを「僕が信じたんです。凄く努力家でございます。」とコメントしました。この「解放性の法則×ウインザー効果×初頭効果」という驚くべき心理戦略を最後の3分で演出しています。
高田明元社長が心理学や精神神経科学を学んだ上でこのような戦略を実行したか否かは定かではありませんが、恐らく高田明元社長は20年以上の経験から、このような行動や発言がビジネスに於いて有効であることを体得していたのでしょう。今後も和製スティーブ ジョブズの行動が気になります。