108 じつは数字にはならない”見えない利益”があることに気づいていますか?

先日、三菱自動車が燃費を実際よりも良く見せるため不正な操作を行っていたことが判明し、株価が一時ストップ安になったことが話題となりました。株式投資や為替投資をやっている方なら誰しも、ボトムの価格で買い、ピークの価格で売り、最大利益を得たいと思うことでしょう。そう思いながらも価格の急激な変動に動揺し、思いとは逆にピークで買ってボトムで売ってしまった経験をされたことがある方も少なくないでしょう。

 

じつは株の分析手法には、企業の財務状況や売上、経常利益、純利益などの実態価値をもとに投資を考える”ファンダメンタル分析”と、チャートや過熱感などの市場動向をもとに投資を考える”テクニカル分析”と、投資家の心理からどのような行動を取られるかの予測をもとに投資を考える”センチメンタル分析”の3つの分析方法があり、これら3つの分析方法をバランスよく兼ね備えると理想的な投資ができると言われています。

 

最近は売買の高速化やシステムトレードなどの自動売買プログラムが一般化しているので、”センチメンタル分析”に効力がないと言われることも多いですが、株価を動かしているのは投資家の心理によるところが大きく、プログラムを作っているのも人間なので、私は”センチメンタル分析”が重要だと考えています。

 

売買の場面では、実際に損失を出してしまったり、得られるはずの利益を逃し「もう少し待って買えば良かった」や「もう少し待って売れば良かった」と利益を逃した感覚に陥ります。逆に思い通りボトムの価格で買ってピークの価格で売ることができれば、実際に利益を得て「いいタイミングで売買ができた」という感覚になります。

 

これらの場面を客観的に見ると、”実際に受けた損失”と”得られるはずの利益を逃した損失”の二種類の損失があり、また”実際に得られた利益”と”避けられた損失から得られた利益”の2種類の利益があることが分かります。

 

この”実際に得られた損失”と”得られるはずの利益を逃した損失”を受けてしまってた際の感情は「失敗嫌悪」「機会損失嫌悪」「した後悔」「しなかった後悔」の4つの後悔感情に分類できます。そのうち「失敗嫌悪」「機会損失嫌悪」 は選択時に予期する後悔感情であり、「した後悔」「しなかった後悔」は、過去実際に経験した後悔感情です。*1

 

三重大学教育学部 人間発達科学過程出身の三浦あずさ女史の研究によると、同じ選択肢を選び続ける傾向をもつ人は、選択時に「失敗嫌悪」の後悔感情を予期しやすく、失敗を避けたいと感じ、より安定した選択を求めていると考えられ、また、新しい刺激への欲求が弱く、飽きにくいという心理特性をもつことが示されたと論じ、逆に、いろいろな選択肢を選ぶ傾向をもつ人は、選択時に「機会損失嫌悪」の後悔感情を予期しやすく、選択できる機会を逃したくないと感じ、積極的にたくさんの選択肢を試そうとしていると考えられる。また、新しい刺激への欲求が強く、飽きやすいという心理特性をもち、情緒性の購買態度をもっていることが示された*1 と論じています。

 

この概念を経営に当てて考えると、いつも同じような戦略を好む経営者は、より安定した選択を求めていると考えられます。つまり保守的な経営スタイルを好むわけです。逆に、常に革新的な戦略を好む経営者は、積極的にたくさんの選択肢を試そうとする革新的な経営スタイルを好むと言えます。そのいずれのタイプにもメリットとデメリットがあり、株の分析手法と同様に二つの経営志向をバランスよく兼ね備えると理想的な経営ができると、私は考えていました。

 

世の中には、保守的な経営スタイルを好む経営者も、革新的な経営スタイルを好む経営者もいますが、それは個々の性格だけでなく経営状態によっても変化し、守るべきキャッシュが少なくなると保守的な経営スタイルを好むようになり、キャッシュに余裕があると革新的な経営スタイルに変化することが多いと、私は考えていましたが、慶應義塾大学社会学研究科出身の心理学者、内藤誼人博士は著書『お金持ちの習慣が身につく「超」心理術』の中で、人間は年齢が上がってくれば上がってくるほど保守的になりやすいと、経営に対する志向は年齢よっても変化し、さらには「お金持ちには保守的なところはない。*2」と言い切っておられます。

 

つまり、この内藤誼人博士の概念からすると、経営者は革新的な戦略を好む方が望ましく、経営者として相応しい方は、選択時に「機会損失嫌悪」の後悔感情を予期しやすい、つまり「しなかった後悔」を優先すると解釈できます。

 

そう考えれば、”保守的に守った利益”より、”革新的に行わずに失った利益”の方を大きいと言えます。‎貸借対照表、財務諸表監査 、キャッシュフロー計算書などの財務諸表には、”保守的に守った利益”は計上されますが、”革新的に行わずに失った利益”は計上されません。

 

amazon.comの時価総額は約19兆円(1814億ドル)*3ですが、その営業利益率は1%前後と低く、マイクロソフトの34%、アップルの28%などと比較しても低く、同業のウォルマートの6%や、ターゲットの7%に比べても低いですが株価は上昇トレンドにあります。その理由を、amazon.comの創業者、会長、社長、CEOにして最大株主のジェフ ベゾスは著書『the everything story:Jeff Bezos and the Age of Amazon(ジェフ ベゾス 果てなき野望)』のプロローグで以下の通り論じています・・・

 

ほとんどの会社は2年から3年でリターンが得られることばかりやりたがりますし、2~3年でうまくいかなければほかのことを始めます。新しいことを発明するより、誰かの発明をまねするほうを好みます。そのほうが安全だからです。これがアマゾンが他社と違う理由でありアマゾンの実態です。

 

・・・常に革新的に経営を続ける。そして”数字になる利益”を3年以上求めない。これは、決して簡単なことではありませんが、グローバル視点で考えると、日本企業が弱くなり、グローバル企業が成長をし続けるポイントがここにあると私は考えています。経営者の皆さんは、ご自身の経営スタイルが”保守的”になっていないか?確認し”革新的”に経営をされることをお勧めします。

 

*1:三浦あずさ(2009)『同じ選択を続ける人の心理特性について』三重大学教育学部 人間発達科学過程57期卒業論文
*2:内藤誼人(2008)『お金持ちの習慣が身につく「超」心理術』東洋経済新聞社
*3:2014年1月のGoogle Finance参照
*4:ブラッド ストーン(2014)『ジェフ・ベゾス 果てなき野望(the everything story:Jeff Bezos and the Age of Amazon)』日経BP社

 

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