2016年6月16日、株式会社ブルボンが衝撃のプレスリリースを発表しました。そのタイトルは『ブルボン、アイスクリーム事業に新規参入「ルマンドアイス」を地域限定で8月8日（月）に新発売！ ～ まるごと“ルマンド”と アイスクリームのコラボレーション ～』。

 

長いタイトルですが、“ルマンド”をまるごと入れたアイスクリーム「ルマンドアイス」の検証販売を開始したというニュースです。そのプレスリリースには以下のような説明があります。

 

「ルマンドアイス」は、アイスクリームの中にミニタイプのクレープクッキー“ルマンド”をまるごと入れ、食べやすいモナカタイプに仕上げました。四つ割りタイプのモナカにはルマンド四本が入っており、ルマンドのサクサク食感がお楽しみいただけます。また、コクのあるココア風味のクリームをアイスクリームにコーティングすることで、ルマンドの味わいをイメージしました。*1

 

とても美味しそうですね？このルマンドは、1974年に発売されたクレープクッキーです。ルマンドは発売以後、生産が追いつかず、増産々の連続で、生産設備も昼夜兼行で設置するなど、その後の新工場の建設へつながりました。*1

 

このプレスリリースは、ルマンドもアイスも大好物の私にとっては衝撃でした。そしてこの衝撃は、1981年10月にロッテ（現ロッテアイス）が発売した「雪見だいふく」を知った時以来の衝撃でした。

 

この雪見だいふくは皆さんご存知の通り、温かみあるイメージの強い和菓子の大福餅と、冷たい洋風のアイスクリームを食材として組み合わせている冷菓です。

 

この二つの商品は共に同様の概念によって商品開発をしています。その概念とは、チェコ モラヴィア生まれの経済学者 ヨーゼフ アロイス シュンペーター（Joseph Alois Schumpeter）が、1912年に発刊した著書『Theorie der wirtschaftlichen Entwicklung（経済発展の理論）』の文中で論じた「新結合（neue Kombination）」という概念です。

 

法政大学名誉教授であり事業構想大学院大学前学長でもある経営学者 清成 忠男 学長による翻訳によると「新結合」を以下の通り翻訳しています。

 

「新しい生産物または生産物の新しい品質の創出と実現」「新しい生産方法の導入」「産業の新しい組織の創出」「新しい販売市場の創出」「新しい買いつけ先の開拓」こうした新結合を遂行することがイノベーション（新機軸・革新）である。*2

 

これは、ハーバード ビジネス スクール（Harvard Business School, HBS）のクレイトン クリステンセン（Clayton M. Christensen）教授の「一見、関係なさそうな事柄を結びつける思考」というイノベーションの定義と符合する概念です。

 

つまり「関係がないと思われるキーワードを組み合わせることで新しい商品が創出できる」と解釈できます。

 

「ルマンドアイス」の場合は、幾重にも重ねて焼きあげたサクサクした歯ざわりのクレープクッキーと、関係がない冷たいアイスクリームを組合せた商品です。また、「雪見だいふく」は、和菓子の大福餅と、関係がない冷たいアイスクリームを組合せた商品です。

 

しかもアイスクリームという本来夏向きの商品に「雪見」という冬の言葉をつけるというネーミングにも関係がないと思われるキーワードを組み合わせています。

 

このように、ヨーゼフ アロイス シュンペーター（Joseph Alois Schumpeter）の「新結合」と、クレイトン クリステンセン（Clayton M. Christensen）の「イノベーション」の思考があれば、比較的容易に新商品が発想できそうです。

 

関西学院大学 経営戦略研究科 理央 周 准教授は、著書『テレビショッピングは、なぜ値段を最後に言うのか？』の文中で「意外な組み合わせが新しいカテゴリーを創り出し、そこで一位を獲ることで、まずはお客様の心の中でのシェアが獲得しやすくなる。重要なのは意外な組み合わせができる発想力を持つこと*3 」と論じています。

 

例えば、皆さんが生産・販売されている商品やサービスと真逆のイメージの商品やサービスを組合せた商品やサービスを考えてみる・・・そうすれば、これまで思いつかなかった商品やサービスが発想できるかも知れません。

 

皆さんの会社から、「雪見だいふく」や「ルマンドアイス」に続く”イノベーティブな新商品”がローンチされることを期待しております。

 

*1　株式会社ブルボン（2016.06.16 13:00）『ブルボン、アイスクリーム事業に新規参入「ルマンドアイス」を地域限定で8月8日(月)に新発売！ ～ まるごと“ルマンド”と アイスクリームのコラボレーション ～』＠Press
*2　Joseph Alois Schumpeter著、清成忠男訳（1998）『企業家とは何か』未訳短編集　東洋経済新報社
*3　理央 周（2013）『テレビショッピングは、なぜ値段を最後に言うのか?』 ダイヤモンド社