062 私的理論「OJM」は現場主義の職場にオススメの新理論です。
「マーケティング」という言葉は、ビジネスにおいて頻繁に使われ、語られ、研究されるものの一つだが、その成功を測定することや理論と成果の相関を実証することも難しい。筆者もマーケティングの世界で生きる事業者であり、これまで語られてきたマーケティングでは、なぜヒット商品を高い確立で生み出すことができないのかを模索してきた。平川(2014)は、現代の消費市場を飽和した市場と形容し、本来は必要のないものを無理して消費者に買わせなければならなくなった。なくても生活が困らないものを、欲望を喚起して買わせると論じている。このような現代において、亀川・有馬(2000)は、現代はマーケティングの時代であり、つくれる「もの」をつくる時代は終わり、顧客に望まれる「もの」をつくらねばならなくなったと論じ、さらに形あるものは、五感を働かすことによってその実態を理解することができると論じている。 この「欲望」や「五感」という言葉に込められた現代の消費者の意思決定は、これまでのマーケティングで語られてきた論理的思考によるものではなく、精神・神経科学に於ける機能的反応や、深層心理から派生する非論理的な思考により決定されると解釈するほうが妥当でないだろうか。
・・・この文章は、私の書いた修士論文『ニューロ・マーケティングの可能性と問題点に係る一考察 A study of possibilities and issues of “Neuromarketing” 』の書き出しです。この文章を改めて読むと、これを書いた当時から「精神・神経科学に於ける機能的反応」に興味があったことが伺えます。同時に和製MBAが教える「古臭いマーケティング」に嫌悪感を感じていました。STP、SWOT、3C、4P、いずれも、そのインプットは定量的というよりは定性的なデーターに基づいた主観的なものです。ですから、経営者と従業員、社内と社外、と立ち場合の違う人間がつくると全く異なった分析になってしまいます。このように、入力する人間によって結果の違う分析に何の意味があるのか疑問です。
しかし、コンサルティングのお仕事をしていると、こう言う古臭いフレームワークがじつに便利で、クライアントの共感を得ることができます。ところが、こういったフレームワークをキッチリと記憶しておくのは至難の技です。曖昧な記憶のまま、マーケティングを学問として使わずにいるより、盛んに実践に使うべきだと私は考え、いくつかの自論を束ねて「OJM」として語っています。
では、私のいう「OJM」とは何か?OJM =「On-the-Job Marketing」つまり、仕事中,仕事遂行を通して使えるマーケティング、あるいは、職場で実務をさせるマーケティングを指しています。現時点で、オンザ ジョブ マーケティング あるいは、On-the-Job Marketing でWEB検索してもヒットしませんから、おそらく私の自論でしょう。
さて、このOJM がこれまでのマーケティングの基本概念と何が違うか?例えていうと「機能を減らした家電製品」のようなもので、「できないこともあるが、普段ならこれでOK!というイメージです。さらにいうと、シンプルだから覚えやすく、身につく、ゆえに日々使える」ということを主眼においた考え方です。順を追ってご説明します。
最初は「STP」です。STPは、市場における顧客のニーズごとにグループ化し、セグメント化した結果、競争優位を得られる可能性が高い、自社の参入すべき市場セグメントを選定。そして、顧客に対するベネフィット(利益)を検討し、自らのポジションを確立する。という概念ですが、これをキッチリ覚えるのは難しい。だから、私はSTPといわず Positioning Map(PM)というようにしています。
難しいことを考えず、考えられるセグメントをいくつも出して、縦と横に置いて、何枚もできたマップにどんどんプロットしていきます。そのうち、消去法的にマップが減り「狙うところはここだな」と、ターゲティングやポジショニングが見えてきます。
二つ目は、3Cです。3Cはご存知の通り、顧客(Customer)自社(Company)競合他社(Competitor)の分析です。これだけなら記憶することは難しくありませんが、需要が多様化する現代において、果たして競合他社(Competitor)だけを見ていて良いのでしょうか?私は、競合他社(Competitor)ではなく、チャンネル(Channel)に変えるべきだと考えています。
スマホに例えていうと、女子高生向けのスマホを開発する際に「女子高生、自社のスマホ、競合他社のスマホ」を見るのではなく、「女子高生、自社のスマホ、女子高生がスマホと同等の価値と感じているもの」というイメージでしょう。デジカメ(コンデジ)のライバルは一眼レフではなく、スマホであるように、ライバルは、同じカテゴリーの商品でも競合他社の商品でもない時代だからです。
三目はSWOTです。SWOT分析をする際に、強み(Strengths)弱み(Weaknesses)機会(Opportunities)脅威(Threats)をインプットするわけですが、これこそデーターの入力者によって結果が変わります。さらに、定性的なデーターに基づいた主観的な結果を眺めながら、定性的なストラテジーを思考してしまいます。そこで、少しでも考えやすくするために、SWOTを展開して、TOWS分析(クロスSWOT分析)を使うことをオススメします。
このTOWS分析(クロスSWOT分析)はサンフランシスコ大学 ビジネス&マネジメント・スクール教授のハインツ・ワイリック(Heinz Weihrich)が「The TOWS matrix: a tool for situational analysis」(1982年)で提唱し、企業の経営戦略や国の競争優位の研究、および戦略策定の定式化のために考案されました。このTOWS分析を使うことで、強み(Strengths)弱み(Weaknesses)機会(Opportunities)脅威(Threats)とストラテジーを客観的に思考しやすくなります。もちろん、TOWS分析(クロスSWOT分析)は、私の自論ではありません。
四つ目は、4Pです。4Pは、製品(Product)価格(Price)プロモーション(Promotion)流通(Place)という4つの要素から構成される概念です。製品開発の担当者やマーケティング担当者ならこの4要素を考えるべきでしょうが、値段やプロモーションの決定権のない営業担当者であればどう考えるべきか?私は、2Pで考えることが有効だと考えています。その2Pとは、製品(Product)と、もうひとつは、4Pにないポジショニング(Positioning)です。つまり前記したPM(Positioning Map)で分析した自社の商品やサービスの立ち位置です。この製品と立ち位置の2点だけを考えれば十分ではないでしょうか。
五つ目は、マーケティングの概念ではありませんが、商品開発の場面でよく考えられる6W2Hや5W1Hなどです。これも要素が多すぎるので、ぐっと減らして2W。誰に(Whom)何を(What)だけで十分だと考えています。
六つ目が最後です。これもマーケティングの概念ではありません。どちらかというと営業担当者などが使う、PDCAという概念です。PDCAは、計画(Plan)実行(Do)評価(Check)改善(Act)から構成されていますが、これも多すぎて使い辛い概念です。改善(Act)を外して、計画(Plan)実行(Do)評価(Check)だけにして、計画(Plan)の段階で、評価(Check)を盛り込めば十分ではないでしょか。つまり、PDCAではなくPDCです。
どれも一般論からすると適切ではないかも知れませんが、私はこれだけで十分だと考え、実行しています。そして、今後もこの思考を続けて行きたいと考えています。