048 ブルーオーシャン戦略はもう古い、これからはホワイトオーシャン戦略だ!
最近お知り合いになったドクターのご紹介で、とあるパーティーに参加した。会場は赤坂の会員制バー。看板どころか店名すら掲げていないお店に、不安なキモチで入店した。次々と集まって来るのは、20代の経営者ばかり、しかも多角的な経営をしている様子で「上場」だとかお話しされている。お財布のお話しになると、財布の中には100万円の現金が入っていて驚いた。でも、格好は高そうなスーツというより、ジーンズにTシャツ的なカジュアルなスタイル。ひょっとして、これが噂のネオヒルズ族か?と思いきや、情報商材をウェブで販売するようなお仕事をしている人はいない。私から見ると、破天荒な人生を歩んでいる方々に見えたが実際は誤解だった。
そんな方々と起業について話していると「このビジネスがやりたかったんです」という方が多い。日本のビジネススクール出身のMBAホルダーだと「現在の人口は◯◯百万人で、そのうち◯◯万人がターゲットになり得る。さらに将来ターゲット層は増加傾向にある」などと考えてしまいがちである。それは日本のビジネススクールでそういう発想が正しいと教えるからだろう。でも、冷静に考えてみると、インターネットが普及した現代では「現在の人口は◯◯百万人で・・・」などといった情報は、誰でも簡単に手に入る時代であり、実際に学生たちが無料で手に入れている情報である。さらに、インターネット上にない情報であっても、インターネットにるリサーチ調査も迅速で安価になっているので、安易に必要な情報の入手が可能になった。
そんな時代に「現在の人口は◯◯百万人で・・・」という発想から起業をすると、プレイヤーの人口密度が高い「レッドオーシャン」で起業をすることになりかねない。現在の市場でいえば、ソーシャル系サービス、スマートフォンアプリ、携帯ゲーム、ビッグデータあたりに関するビジネスは、このレッドオーシャンにあたるビジネスだろう。しかし、その逆張りをしたつもりで、プレイヤーの人口密度が低い「ブルーオーシャン」を狙おうとすると、こんどは、ターゲットの絶対数が少なすぎてビジネスにならないことも多い。
では、このパーティーに参加していた若き経営者たちは、なぜ成功したのか?私は「彼らはマーケティング リサーチをやらなかった」ことが成功の要因だと感じた。マーケティング リサーチをやらなければ、レッドオーシャンに行くことも少ないし、意識してターゲットの絶対数が少ないブルーオーシャンに行くことも少ない。では彼らは、どんなオーシャンで起業したのか? 彼らは、誰もオーシャンとして意識していなかった、またはオーシャンとして存在を気づかれていなかったオーシャン=「ホワイトオーシャン」の市場を創出したのではないか。
そういえば、修士時代の優秀な先輩がシングルマザー家庭を対象としたシェアハウス事業を起業した際に、ご自身が「シングルマザー家庭で育ったことで感じた問題のソリューションになりたい」というようなことをいわれていたことを思い出した。このビジネスモデルもまた、多くのインキューベーターから評価を受けたことで起業ができたと聞いている。このケースもまた、そもそもマーケティング リサーチから出てきたデータを基に、ビジネス ドメインを決めたわけではないだろう。
これらのいくつかのケースは、事業構想の段階でマイノリティな市場だったのかも知れない。確実にニーズはある、しかし、統計データーに現れる前の段階で、その段階の小さな小さな余震のような世の中の動きを、若い世代の敏感な肌感覚で「なんか行けそう」と思ったのだろう。若者の「なんか行けそう」という言葉を聞くと、主観的でネガティブに感じてしまうのは、常に商品の市場占有率や売上高など数値として把握できる定量データや、消費者の購買意識など数値に表せない質的な情報である定性データを求められたときに備える研究者の弱点だろう。
では、マーケティング リサーチが無用かというと、そうではなくて、ビジネスを創造する場面では必要ないが、ビジネスのドメインとアウトラインが決定したあと、クリエイティブ制作などの場面では、マーケティング リサーチが有効になって来る。特に消費者の意思決定の90%が無意識領域で行われているといわれていることから考えると、044 ヒートマップ解析なしでは語れないこれからのマーケティング(パッケージ編)でご紹介した、ヒートマップ解析のようなニューロマーケティングの分野に属する分析なしでは、これからのTo Cビジネスは成り立たないだろう。アントレプレナーのみなさんにはブルーオーシャンではなく、ホワイトオーシャンを目指していただきたいと思う。