051 奥田愛基くんと深瀬慧くんのマーケティング視点における比較
みなさんは深瀬慧くんをご存知だろうか?SEKAI NO OWARIの初代リーダーといえば殆どの人がご存知だろう。彼はメンバー内で最も多くの楽曲の作詞・作曲を手がけている。その作品の中には多くの政治的メッセージがある。そのSEKAI NO OWARIの『天使と悪魔』の歌詞の一部がこちら・・・
『大人VS大人の正解・不正解のバトル。TVで子供らに教える「ダレが”間違って”るか」正義のヒーローは悪党を倒すものだと子供はTVをみて思う「悪は滅ぼさなきゃね」。もし僕が正しくて君らが間違いなら僕らは戦う運命にあるの? 僕らはいつも「答」で戦うけど2つあって初めて「答」なんだよ。悪魔と天使の世界であちらが正しいとか、こちらが間違ってるとか解らないんだ。「悪魔と天使」 僕らがどちらなのかなんてさ解るはずもなければ解りたくもない。正義が支配する最悪な世界ではマジョリティーこそが「正しい」とみんな「間違える」?「正義」を生み出した神様聞こえていますか。あんなものを生み出したからみんな争うんだよ。戦うべき「悪」は自分の中にいるんだと「世界」のせいにしちゃダメだと僕はそう思ったんだ。何かを変えるってことは自分自身を変えるということとほとんど同じなんだよ。「僕ら」が変わるってことは「世界」を変えるということとほとんど同じなんだよ。悪魔と天使の世界でこちらが正しいとかあちらが間違ってるとか解らないんだ。「賛成」と「反対」の間に「答」が生まれればいい。正しさを主張するだけじゃ「答」じゃないんだ。否定を否定するという僕の最大の矛盾は僕の言葉全てデタラメだってことになんのか?』
・・・皆さんは、どのようにお感じになっただろう?
話は変わりますが、奥田愛基くんをご存知だろうか?SEALDsの初代リーダーといえば殆どの人がご存知だろう。彼は現在でもメンバーのリーダーとして多くの発言を残している。その発言の中には多くの政治的メッセージがある。その奥田愛基くんが、参議院特別委員会の公聴会に出席し意見を述べた冒頭部がこちら・・・
『ご紹介にあずかりました大学生の奥田愛基と言います。SEALDsという学生団体で活動しております。あのー、すいません、こんなことを言うのは大変申し訳ないんですが、さきほどから寝ている方がたくさんおられるので、もしよろしければ、お話を聞いていただければと思います。僕も2日間ぐらい緊張して寝られなかったので、早く帰ったら寝たいと思っているので、よろしくお願いします。はじめに、SEALDsとは「Student Emergency Action for Liberal Democracy s」。日本語で言うと「自由と民主主義のための学生緊急行動」です。私たちは特定の支持政党を持っていません。無党派の集まりで、保守、革新、改憲、護憲の垣根を越えて繋がっています。最初はたった数十人で、立憲主義の危機や民主主義の問題を真剣に考え、5月に活動を開始しました。その後、デモや勉強会、街宣活動などの行動を通じて、私たちが考える、国のあるべき姿、未来について、日本社会に問いかけてきたつもりです。』
・・・皆さんは、どのようにお感じになっただろう?
この二人を比較することや、その内容を比較することは不適切かも知れないが、私がみなさんにお伝えしたいことは、この二人の表現はマーケティング的にも全く異なったアプローチをしているということである。深瀬くんのいう「僕ら」というのは、聴いている側つまりユーザーと自分を括っている。言い換えると顧客との価値創造をしているとも解釈できる。一方の奥田くんのいう「私たち」というのは、SEALDsを指していて、理解を求めている与党議員を対岸に置いている。つまり言い換えると顧客と対立関係にポジショニングしているとも解釈できる。奥田くんは、明治学院大学国際学部3年生だそうだが、国際学部だとマーケティングについて学ぶ場面がなかったのかも知れない。
さらに、SEKAI NO OWARIは、ニューロマーケティングに近い領域にある「ストーリー マーケティング」を導入しているともいえるだろう。株式会社ITR 代表取締役/プリンシパル・アナリストの内山悟志氏は、ストーリー マーケティングを以下の通り定義している。
『ストーリー・マーケティングとは、商品やサービス、あるいは企業などのブランドに対して、そのものの性能や機能における優位性、価値を訴えるのではなく、体験や世界観といった情緒的な付加価値を訴求することで共感を生み出すマーケティング手法である。物語マーケティングなどと呼ばれることもあり、日本国内においても1990年代から、広告代理店やマーケティング・コンサルタントなどがその有効性に注目していた。多くの消費者は、既に必要なものを持っており、単に商品が優れているから、価格が安いからといった理由だけで購買行動が喚起されなくなってきている。従って、ストーリーへの共感により需要を創造することへ期待が寄せられることは容易に理解できよう。』*1
深瀬くんをはじめメンバーの過去を知り、共有することで、思い入れが強くなったり、神格化された人が多いのではないか。SEKAI NO OWARIのように複数でストーリー マーケティングを行う場合、難しいのがストーリーの統一である。彼らは、4人で生活したり、同時に同じ映画を鑑賞したり、頻繁に食事を共にしているそうだが、これらの無意識な行動もストーリーの統一ができている理由だろう。しかし、ストーリー マーケティングにも、設定したストーリーが好きでない人間に対しては、極端に反応されるというネガティブな面もある。昨今、アニメに熱狂的なファンが生まれることも、ストーリー マーケティングの概念を使えば上手く説明ができる。
もちろん企業においても、ストーリーを築き、それをスタッフ全員が共有し、統一した情報として発信していくことが、益々重要な時代になったことは明らかだ。
*1 ITメディア 2013年04月10日更新『ソーシャル時代のストーリー・マーケティング』より