052 商品開発やマーケティング担当者にはアニメオタクを配置するべき
最近テレビを観なくなったが、思い起こせば東日本大震災のときに、どこの局を観ても辛く悲しい映像ばかり流されたところから、自分のテレビ離れが始まった気がする。しかし、そうなると、確証バイアス(Confirmation bias)が加速し、世の中を俯瞰して観れなくなるので、いくつかのプログラムをオンデマンドで観ている。特にETVのプログラムが多く、浦沢直樹の漫勉、オイコノミア、課外授業 ようこそ先輩、サイエンスZERO、人生デザイン U-29、新世代が解く!ニッポンのジレンマ、スーパープレゼンテーション、すイエんサー、白熱教室海外版などが視聴回数が多いプログラムだ。
そんな中で「浦沢直樹の漫勉」が気になっている。9月から放送しているシーズン1では、東村アキコ先生や、浅野いにお先生のように10代・20代を中心にカリスマ的人気を誇る漫画家のクリエイティブワークを詳細に伝えている。このプログラムを観ていて感じることは、東村アキコ先生にしても、浅野いにお先生にしても、目指すコンバージョンは”できるだけ多くの方に読んで欲しい”と考えているということを感じた。もちろんストレートにそんな表現はしないが、単なるフェチシズムだけで作品を描いているわけでないことが伝わってくる。
以前、大前研一氏が、成功する経営者は「みんなから見放される経験を何回もしてる人」 *1 だと、論じたが、成功する経営者同様、成功する漫画家もまた「みんなから見放される経験を何回もしてる人」なのだろう。故にカリスマ的人気を誇る漫画家先生方の多くは、”食べれない時代”を経験して現在に至り、食べれることが前提だということを無意識領域でキッチリ備えているのかも知れない。これもニューロマーケティング的に考えると確証バイアスによる思考なのかも知れない。
「浦沢直樹の漫勉」では、漫画家のクリエイティブワークを詳細に伝えているが、どの漫画家も”現在こんな漫画が売れている”とか”過去売れた漫画にはこういう傾向がある”といった、いわゆるマーケティングリサーチを一切行っていない。そして、自分の脳内の情報だけで作品を創作していく。まさしく、これまでのマーケティングの及ばないプロセスで商品開発を行っているといえる。つまり、成功している漫画家さんはアンチマーケティングで仕事をする、”0を1にするスーパークリエイター”といっても良いだろう。
話は変わるが、私はとあるメーカーさんの東京モーターショー出展に関するお仕事をさせていただいている。その打合せには商品開発担当者が参加される。そのお一人に相当なアニメオタクな方がいる。その方とお話をしていると、いつも話が脱線してすぐにアニメのお話になる。ところが、そのアニメのお話の中に多くのビジネス アイデアを見つけることが多い。かれらオタクもまた「どんな漫画に人気があるのか?」などとマーケティング アナリティクスを考慮して読む漫画を選んだりはせず、無意識領域における意思決定を尊重した生き方をしていると感じる。
さらに”オタク”とは、自分の好きな事柄や興味のある分野に傾倒しすぎる人への呼称*2 であるということからすれば「一つの専門分野の深掘りをし続ける」という研究者や開発者として最適な資質を備えているといえるのではないか。
「何が売れている」、「過去売れた商品の傾向は?」といった情報は、どこの同業他社も容易に入手可能な時代である。そんな情報から商品開発を行っていれば、同業他社と類似した商品開発しかできず、レッドオーシャンに身を鎮めることになる。これは以前のブログ『048 ブルーオーシャン戦略はもう古い、これからはホワイトオーシャン戦略だ!』でも書いたことだ。現代の商品開発やマーケティング担当に最適な資質は”アニメオタク”だという仮説はいかがだろうか?
*1 2015年4月に行われたマネーフォワード主催の「MFクラウドExpo 2015」特別講演「『勝ち残る企業の条件』-クラウドが迫るマインドチェンジ-」より
*2 ニコニコ大百科 単語記事: オタクより