056 パワーポイントはもう古い、これからは紙芝居式プレゼンだ
成功哲学のパイオニア、アール ナイチンゲールの言葉に「もし、あなたの周りに成功しているお手本となる人がいなければ、周りの人がしていることを観察し、それと全く逆のことをせよ」という言葉がある。この言葉は、マイケル ポーターによって提唱された競争戦略のうちの一つである「差別化戦略」に通じる概念である。マイケル ポーターの差別化戦略は、同種カテゴリーのある他社、ないし自社の製品やサービス群において、基本機能は同じであっても、斬新なデザインやブランドイメージ、あるいは広告などによって、その製品・サービスなど、価値活動の一部が優れているということを強調することで、他の競争業者と差別化を図ることであり、競争優位性を発揮しようとする戦略である。同種カテゴリーにある商品となる製品やサービスが市場を共有している(「同じパイを分配している」状態)という前提に立つ経営戦略で、これにより新しい製品やサービスによりシェア(=売上げ)を拡大しようというのが狙いである。*1
改めていうまでもなく、経営者は誰しも差別化戦略の重要性を経験をもって体得しているものだ。ところが、いざ日常の業務となると、競合企業の商品やサービスの詳細な情報の収集にコストと時間を使い、得られた情報に近しい商品やサービスを求めてしまう。「ブランド」は、牛などのに焼印を施し、他者の家畜と区別するために行われたことから派生した概念だが、これこそが差別化戦略の源流ではないか。そして、ブランドという「付加価値」を得た商品やサービスは売り手が望む価格で、売り手が望む量を販売することが可能になってゆく。
ところで、弊社はプロモーションの仕事を受注する際に「コンペティション方式で依頼先を決定するのでプレゼンをお願いします」といわれることがある。過去いくつかのコンペ(コンペティション)に参加したことがあるが、選ばれなかった時の社内のモチベーションの低下を考えると容易に受けるべきではないし、コンペで選ばれる条件として他社よりも安価な見積りを必要とされることが多く、そのような基準で選ばれることが企業価値向上には繋がらないと判断し、最近では、プレゼンによるコンペはご辞退することにしている。
そんな数少ない過去のコンペによるプレゼンの場面では、多くの企業がPCとプロジェクターを用意し、PowerPointやKeynoteを使ったスライド プレゼンを行っていた。もっとも大勢の前でプレゼンをするとなると、この方法以外に最適な方法はなかなか見つからない。しかし、10名以下のひとつの島テーブルでプレゼンをする場面でさえPowerPointやKeynoteで制作した資料をPCとプロジェクターを使ったり、PCのモニターを使ってプレゼンをする方も多い。
この場合、プロジェクターを使うと室内が暗くなるので、オーディエンスがメモをとりにくくなることと、さらにプレゼンターの表情が伝わりにくくなるという大きなデメリットがある。またPCのモニターを使っても、スライドがいつ動くか予想できないので、どうしてもオーディエンスの視線は、プレゼンターではなくモニターに注目が集まってしまうし、ホワイトボードを使ったプレゼンでもプレゼンターがホワイトボードに向かう瞬間に、オーディエンスとプレゼンターのアイコンタクトが途切れる。
そこで私は、大人数向けのプレゼンを避け、出力した厚紙を使った紙芝居式プレゼンを行うようにしている。さすがに大人数のプレゼンは難しいが、A3の用紙を使えば30名程度のプレゼンまでは可能だ。こうすれば、室内は明るく保たれ、オーディエンスはメモをとりやすく、プレゼンターの表情が伝わりやすいという大きなメリットも生まれる。私の経験からすると、紙芝居式プレゼンだと、いつシートが変わるかがオーディエンスにも予想できるので、オーディエンスは紙に視線を集中させることがなく、プレゼンターとのアイコンタクトが増え、対話型のプレゼンになりやすい。しかも、後方の見えにくい方の前に紙を持って行ったり、2枚を同時に見せたりとPCとプロジェクターではできないアクションが可能になる。
精神神経科学的にいうと、アイコンタクトは「視線交錯行動」といい、親しい相手には一般的にアイコンタクトは増加するといわれ、逆にいうと、アイコンタクトを増やせば、親しくなれる可能性が高くなるともいえなくもない。少し強引に聞こえるかも知れないが、「個体間の親密さは、接触回数、 接触頻度が多ければ多いほど増す」という「単純接触の原理」あるいは「単純接触効果」という概念で説明ができる。
話を「差別化戦略」に戻すと、PowerPointやKeynoteで制作した資料を、PCとプロジェクターを使ったり、PCのモニターを使ってプレゼンすることが一般的であるから、紙芝居式プレゼンが差別化戦略的プレゼンになる可能性が高いといえるだろう。
2015年10月2日に公開されたJanet Jacksonの『BURNITUP! Feat. Missy Elliott (Lyric Video)』では、紙芝居式プレゼンが上手く使われているというのは冗談だが、私はここまで書いたようなことを考慮しているのではないかと思えてしかたがない。