059 喜・怒・哀・楽のうち最も拡散される感情は「怒」であるという仮説

アメリカの投資会社Piper Jaffrayの「10代市場調査(2015年秋版)」によると、若者のフェイスブック離れが進み、それに代わって写真共有のインスタグラムやスナップチャットの人気が急上昇していることが明らかになったそうです。

 

そんなことへの対策なのか、Facebook社のマーク・エリオット・ザッカーバーグ(Mark Elliot Zuckerberg)CEOは、タウンホールミーティングで公式に「よくないね!」のボタンを導入すると語りました。

 

つまり、これまでFacebook社が行ってきた「正の感情」に対する「いいね!」ではなく、「負の感情」に対する「よくないね!」という感情表現を利用してSNSを活性化しようとしているのかも知れません。

 

そもそも、精神神経科学的にいうと、ヒトは「正の感情」より「負の感情」の方が受ける印象は大きいので「負の感情」に対する拡散力の方がより強力だといえます。

 

そのベースとなる概念にプロスペクト理論(Prospect theory)という概念があります。これは、カリフォルニア大学バークレー校の心理学者であり、行動経済学者でもあるダニエル カーネマン(Daniel Kahneman)教授と、スタンフォード大学の心理学者であるエイモス トベルスキー(Amos Tversky)教授によって1979年に展開された概念です。

 

このプロスペクト理論によると「人間は本能のまま行動すると利益を早めに確定し、損失を拡大する傾向がある」ということで、それを裏付ける事実(ファクト)として、多くの投資家は「株で含み損を抱えたときは損を確定するのを嫌がるから損切りはしないが、利益を得たときは早期に利益を確定させる心理」が働くことが実証されています。

 

つまり、「人間は損失のショックが大きく、利益を得たときの喜びが少ない」さらにいうと「人間は損失を過剰に恐れる傾向がある」と論じているわけですから、ヒトは「正の感情」より「負の感情」の方が受ける印象は大きいので「負の感情」に対する拡散力の方がより強力だといえると、私は仮説を立てています。

 

例えば「あいつは気に入らない」というお話と「あいつは良いやつだ」というお話のどちらのタイプのお話を聞くことが多いか?または「あのお店は良くなかった」というお話と「あのお店は良かった」というお話のどちらのタイプのお話を聞くことが多いか?

 

話は変わりますが、1986年にノーベル平和賞を受賞したボストン大学のヴィーゼル エリエーゼル(Wiesel Eliézer)教授が、1986年の「US News & World Report (27 October 1986)」のインタビューで論じた「The opposite of love is not hate, it’s indifference. (愛の反対は憎しみではなく無関心)」という言葉があります。

 

これらのことをマーケティング的に考えると「ネガティブな評判でも知られないよりも知られた方がよい」といえるのかも知れません。元大阪府知事の方や、証券取引法違反で実刑判決を受けた元IT企業社長もこのようなことを考えて発言しているのではないか?と思える節もあります。

 

また、2014年のノーベル平和賞受賞者であるカイラシュ サティヤルティ(Kailash Satyarthi)氏は「How to make peace? Get angry(平和を実現するには? 怒ってください)」のプレゼンテーションの中で以下のように論じました。

 

『I’m urging you to become angry. And the angriest among us is the one who can transform his anger into idea and action.(怒ってください。最も激しく怒っている人が、怒りをアイデアそして行動に変えられる人なのです。)』

 

このように「怒り」や「哀しさ」といった「負の感情」のパワーが、時代を良い方向に動かす大きな原動力になると私は考えています。

 

プロスペクト理論