073 自動運転の普及で日本の自動車業界が壊滅する。

僕が参加させていただいている研究会のひとつに“運転と認知機能研究会”と言う研究会があります。この研究会は、認知症や高次脳機能障害を持つ人の診療やケア、心理的・社会的・工学的サポートに携わるさまざまな職種の専門家が、認知機能の観点から自動車運転の問題を考える「共通の場」となることを目的として発足し、12月5日に本年度の研究会が開催されました。

 

安全な交通社会の形成と高齢者・障害者の自立的な移動の促進を目指す本研究会の席上でも”自動運転”と言う言葉が語られたことは言うまでもありませんが、自動運転が実現化されるまでには、技術・倫理・法令など多方面で越えるべき壁がまだまだあるようです。

 

技術面に於いて多くの問題がありますが、特に右折の問題がまだまだ解決されていないようです。やはり、対向車などの見極めなど交差点内の判断について、AIでの判断はまだまだ厳しいようです。

 

また倫理面では、事故が起きたときに誰の責任になるか?と言う問題が解決されていません。2015年10月、米テスラ モーターズが半自動運転の機能を導入したところが、ドライバーが運転席を離れて運転の様子を撮影し、動画サイトにアップするという無謀運転の事例が続出し、それに対して、同社は「ドライバーは自動運転の間も常にハンドルを握る必要がある、事故が起きた際の責任はドライバーが負うものとする」と発表しました。つまり、自動運転であっても責任はあくまでドライバーにあると言う見解です。僕はこの見解に賛成です。

 

ところで皆さんは、”アシアナ航空214便着陸失敗事故”を覚えていますか?2013年7月6日に仁川国際空港を離陸し、サンフランシスコ国際空港(San Francisco International Airport)へ向かっていたアシアナ航空のボーイング777-200ER型機が、着陸に失敗、炎上した航空事故です。原因について、副操縦士がボーイング777型機について飛行時間43時間で慣熟訓練中であり、訓練教官役だった機長も事故発生の20日前に教官としての資格を取得したばかりの資格取得後初の訓練教官役としての搭乗で、機長、副機長ともに777型機に対する経験不足だったことだと言われており、NTSB(国家運輸安全委員会)の最終報告書では、機長、副機長ともにオートパイロット機能になにができてなにができないのか把握していないのに、過度にオートパイロットに依存し、着陸時にゴーアラウンドの判断が遅れていることに気がつかなかったとし、アシアナ航空のパイロットが悪かったと断じました。

 

つまり、如何なる自動運転でも、自動運転と言う選択を行う際の判断はドライバーがするので、メーカーに非はないと言う見解です。世界がこの見解を尊重すれば、自動運転の実現化は一気に加速するだろうし、認知機能研究会で研究されている高齢者・障害者の自立的な移動の促進が進むと考えられます。ところが、日本の自動車メーカーはまだまだこの点について懸念をしているようです。確かに自動運転によって大きな連鎖事故が起これば、数百億円の損害賠償請求が起こる可能性はあります。しかし、米テスラ・モーターズのように毅然とした「全ての責任はドライバーにあり」の姿勢で自動運転の研究と実用化を進めなければ、日本の自動車業界は壊滅するかも知れません。

 

自動運転が実用化されていない現在では、誰かが交通事故を起こすと、その経験は”誰か”だけの経験として、”誰か”だけの以降の運転に生かされるだけです。しかし、自動運転が実用化されると、運転をつかさどるAIがインターネットを経由して、事故の経験は全てのクルマの経験として蓄積され、同様の事故が二度と起こらなくなります。つまり、一度起こった事故は二度と起こらないということです。そんな夢のようなクルマが世界中を走ることになれば、あっという間に交通事故の確率が現在の一万分の一や、一億分の一になることでしょう。

 

米Googleの深層強化学習(Deep Reinforcement Learning)アルゴリズムを用いた人工知能「DQN(Deep Q-Network)」が、ブロック崩し「breakout」を行うと、プレイ回数が100~200回の時点ではボールを取りこぼすこともあったが、400回を超えるとうまく跳ね返すことができるようになった。600回を超えると、別の壁を使ってボールをバウンスさせることでブロックを崩す攻略方法を発見した。と発表しました。

 

このようにAIによる自動運転が実用化した瞬間は事故が続発する可能性があると言えます。しかし、ムーアの法則(Moore’s law)によって、急速に交通事故が限りなくゼロに近づくことでしょう。そんな未来に向けて、私たちが犠牲になるとすれば皆さんはどう思いますか?

 

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