094 経営陣に知ってほしい簡単な部下の能力の見分け方

業績が好調な部署や、事業を担当している部下を無意識に「優秀」と感じてしまうことは、誰しもよくあることです。しかし、好ましくない業績の部署や事業を担当して業績を好転させた部下ならともかく、外部要因に恵まれ、そもそも誰が担当しても好調な業績が期待できる部署や事業を担当している部下を優秀と判断するのは誤った判断でしょう。

 

また、部下の立場の方々も「上司が業績が好調な部署や事業を担当している部下を無意識に優秀と感じてしまう」ことを周知しているので、業績が好調な部署や事業を無意識に望んでしまいます。このようなことからいえることは、業績は必ずしも部下の能力とはリンクしないということです。

 

では、部下の能力をどのような方法で見分けたら良いのか?そのひとつの見解として、僕は「曖昧な表現をする部下に優秀な人材はいない」と解釈しています。ビジネス心理学の第一人者として、実践的な心理学の応用に力を注いでいる立正大学 内藤誼人 客員教授は「曖昧表現は日本人の知恵」と、その理由を次の通り論じています・・・

 

「明確な発言をすると、責任がついてまわりますよね。昔から日本人は、責任の所在を分散させて、問題が起きたときに誰か1人が責めを負うことがないよう配慮してきたのです。責任を分散させることは自分に責任が及ばないようにすることでもあります。日本人の昔からの習慣が、日常会話に現れてしまうのでしょうね。

 

日本人が曖昧な表現を好むもう1つの理由に、相手との議論を避けたいという心理があります。議論をすると勝敗がついてしまいますよね。それでは周囲の人とのあいだに、摩擦が生まれてしまうかもしれません。そこであえてぼやけた表現を使うことで、他人との議論を避けてきたのでしょう。日本人に議論を避ける傾向があることは、日米の比較テストでも証明されています」*1

 

・・・要約すると、「曖昧表現で、自分に責任が及ばないようにし、周囲の人との摩擦を避けようとする」ということです。どうですか?上司の方も部下の方も思い当たる節があるのではないでしょうか?このような曖昧な表現をするヒトは「責任逃れのイエスマン」のタイプだと僕は解釈しています。

 

メールやメッセンジャーなどで行う社内の連絡の際に「思います」「おそらく」「かもしれません」というような曖昧な表現が使われることは珍しいことではないでしょう。しかし、内藤誼人 教授の概念からすると、このようは表現をする部下は、自分に責任が及ばないようにし、周囲の人との摩擦を避けようとするタイプのヒトだといえます。

 

IMG最高経営責任者であるマーク マコーマック (McCormack,Mark H.)氏は「曖昧な表現は嘘の前兆だ」と論じています。つまり、曖昧な表現をする部下は、いつしか上司に嘘の報告をするようになる可能性が高いと解釈できます。

 

また、獨協大学経済学部 松下信武 特任教授は、プレジデント誌2009年6.1号で、次のような記事を発表しました・・・

 

アリゾナ州立大学でとても興味深い心理実験が行われた(※注1)。きちんとした生活習慣を好む傾向や、あいまいで、結果がどうなるのかわからない状態を嫌う傾向を、人がどれくらいもっているかを測定するPNSという心理テストがある(※注2)。PNSのスコアが高い人ほど、その傾向が大きい。

 

心理学を勉強しようとする学生にこのテストを受けてもらったうえで、学期末までにある課題をやり遂げたら単位を取得でき、やり遂げなかった学生は次の学期に再挑戦しなければならないという条件が与えられた。その結果、PNSスコアが高い学生は、低い学生に比べ、やり遂げた学生の割合が高く、早い時期に課題をやり遂げる傾向がみられた。

 

つまり、規則正しい生活を好み、何が起きるかわからないような環境を嫌う学生のほうが、まじめに、スピーディに与えられた課題に取り組んだ、ということになる。私たちが日常で使う「まじめな人」という言葉は、「規則正しい生活習慣をもち、安定した状態を好む人」と言い換え可能ではないだろうか。だとすると、まじめなビジネスパーソンのほうが、そうでないビジネスパーソンよりも、与えられた仕事をやり遂げる確率が高いという結論は当然すぎるくらいである。

 

問題は「スピーディ」である。なぜPNSが高いと、早く課題をやり遂げようとするのだろうか。アリゾナ州立大学の研究者は、「結果がどうなるのかわからない状態を嫌う」学生は、急いで決着をつけたがるから、早く課題をやり遂げたがるのではないかと考えている。

 

この考察をビジネスパーソンに適応すれば、まじめなビジネスパーソンほど、見通しがきかない状態を不愉快に思い、できるだけ早く仕事をやり遂げようとするといえる。仕事が速いビジネスパーソンは、仕事の見通しが立たない間は不愉快に感じ、いらいらして腹が立ちやすい心理状態になっている。だから仕事が速い人はすぐに腹を立ててしまうということになる。

 

注1:Journal of Personality and Social Psychology 1993. Vol.65 No 1. 113-131 p125
注2:Personal Need for Structure Scale *2

 

・・・つまり「曖昧な状態を嫌うビジネスマンは与えられた仕事をやり遂げる確率が高い」といえます。逆にいえば「曖昧な状態を好むビジネスマンは与えられた仕事をやり遂げる確率が低い」ともいえます。

 

多くの業界に於いて、商品やサービスが供給過剰の状態にある現代にとって「曖昧表現で自分に責任が及ばないようにし、周囲の人との摩擦を避けようとする、与えられた仕事をやり遂げる確率が低い部下」が、組織にとって必要か否かは、優秀な経営陣であれば容易に判断がつくことでしょう。

 

*1:内藤誼人(2015)『日本人が曖昧な表現を好む理由を心理学者が分析』教えて!goo 2015年07月19日 20:00
*2:松下信武(2009)『「仕事の速い人」はなぜすぐ腹を立てるのか』プレジデント誌 2009年6.1号

 

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