097 お客様を怒らせてしまったときの適切な対応とは?
少し前のお話になりますが、大韓航空の飛行機に搭乗する機会がありました。大韓航空といえば、2014年12月5日に大韓航空の副社長 趙顕娥 女史が起こした事件、いわゆる「ナッツリターン」を思い出しました。
この事件はファーストクラスに搭乗していた大韓航空の副社長 趙顕娥 女史に客室乗務員がマカダミアナッツを袋に入れたまま提供したところ、ナッツ提供の接客作法が「マニュアルに従った行動でない」と激怒し、客室乗務員に対して「今すぐ飛行機から降りろ」と指示したことが発端でした。
後に、客室乗務員が行ったナッツ提供の接客作法について、マニュアルに従った行動だったことが判明し、趙顕娥 女史は世論から強い非難を受けることとなりました。
そんなことを思い出しながら大韓航空の機体に搭乗しようと搭乗ゲートを通過すると、私と家族のチケットだけがエラーになりました。即座に地上スタッフの方が私のチケットを取上げ、ペンでシート番号を訂正しました。
機内に入ると、当初指定していたシート番号は存在せず、全く違う場所にペンで手書きされたシートがありました。客室乗務員に事情を聞いたところ「機材に変更がありましたので、シートを変更しました」とのこと。しかし、事前に予約していた席とは全く違う席なので、当初の席と同等のシートに変更して欲しいとお願いしたところ、当機は満席につき変更は不可能とのお返事でした。
機材の変更は、搭乗の直前に決まったわけではないだろうし、せめてゲートの待合室でアナウンスがあれば納得も出来ましたが、乗せられてから「選択肢はありません」というのは何とも納得のいかない事態でした。
ナッツリターンの趙顕娥女史を擁護するわけではありませんが、私はここにナッツリターンの根本的な原因があるのではないかと感じましたし、大韓航空の改善されない悪しき社風を感じてしまいました。
臨床心理士指定大学院入試対策講座の講師を務める湯川彰浩氏は、自著の理学用語集で次のように論じています・・・
欲求を充たそうとする行動が妨害され、目的を果たせないでいる人は欲求不満を感じますが、こうした状態は欲求阻止状況と呼ばれます。(中略)このように冷静な対処ができない、あるいは対処してもうまく行かなかった場合は代わりの目的を設定して代償行動を取ったり、防衛機制を用いて妥協点を見出すことになります。
・・・この文章からいえることは、欲求を充たそうとする行動が妨害され、目的を果たせないでいるヒトは「代わりの目的」と「妥協点」を探すということです。
私のケースの場合「代わりの目的」と「妥協点」は与えられず、ナッツリターンの場合も同様だったのかも知れません。つまり、お客様を怒らせてしまう可能性がある場合には、事前に「代わりの目的」と「妥協点」を用意しておく必要があります。
例えば、電車の遅延のケースを例に取ると、バスや他線による振替輸送が「代わりの目的」に当たります。さらに、遅延して目的の駅に到着すると「遅延証明書」という「妥協点」が用意されています。それでも怒るヒトはいますが、この2つの事前準備によって怒るヒトが激減していることは明らかです。
目白大学大学院心理学研究科現代心理学専攻 川島達史 氏は、ヒトが怒る原因には「①行動を制限される ②自尊感情が傷つけられる」という2つの理由があると論じています。
もし、電車が遅延して振替輸送がなければ「①行動を制限される」に該当し、怒るヒトを生むことでしょう。私のケースもこの「①行動を制限される」が原因だと解釈しています。
飛行機や電車といった交通機関だけでなく、小売業やサービス業のビジネスでは、お客様からのクレームを避けることは不可能です。しかし、冷静に分析してみるとお客様からのクレームはいくつかのケースに分類できます。その分類ごとに「代わりの目的」と「妥協点」を準備しておけば、ナッツリターンのような大きなトラブルは避けられるでしょう。
あなたのビジネスにおいて大きなトラブルが起こる前に、もう一度お客様からのクレームを分類し、「代わりの目的」と「妥協点」をご用意されることをお勧めします。