100 新たな市場や新たな顧客を狙うことは間違っているかも知れません
昨年の春からこのブログを書き始めて今回で100回目を迎えました。もともと自身が読んだ書籍や、論文を整理して記憶する目的で始めましたが、ありがたいことに多くの方に読んでいただけているようです。
最近では自身の記録というより、僕のクライアント様や知人、友人などの中で「情報をお届けしたいお一人」を設定して書いています。そんな「お届けしたいお一人」から記事の感想などのコメントいただけることが、僕の報酬となり100回を迎えることができたのだと、皆さまに対して感謝の気持ちでいっぱいです。
1回当たり 2,500文字を目処に書いているので、約250,000文字書いたことになります。A4判の電子公文書の文書型定義が、10.5pt、40文字x36行ですから、A4だと174枚書いたことになります。そう考えると大した分量ではありませんが、書き始めた頃の内容と最近の内容を比較すると、分野が狭くなり内容が深くなって来たと自負しています。
そして今回の100回目は、「最近売上が思うように上がらない」「この業界に未来がないと」嘆き、新たな市場や新たな顧客を狙おうと、お考えの経営者さまに対するご意見を書きます。
先日、学友でもある投資家さんから、株式投資の世界の格言に「もうはまだなり まだはもうなり」という言葉がありますがご存知ですか?というご質問を受けました。もう底だと思えるときは、まだ下値があり、反対に、まだ下がるのではないかと思うときは、底かもしれないという意味の言葉だそうです。
詳しく調べてみると、原文は八木虎之巻や宗久翁秘録に記載がある歴史ある言葉だそうで、「人の行く裏に道あり 花の山」とならんで、格言の双璧といっていいほどよく口にされる言葉だそうです。
この言葉から考えると、最近売上が思うように上がらない」「この業界に未来がないと」嘆き、新たな市場や新たな顧客を狙おうという考えは「もう」にあたるので、もうはまだなり まだはもうなり的には「まだ」なのかも知れません。
レコード針の株式会社ナガオカが順調に経営を継続されていたり、日立マクセルが現在でもなおカセットテープを生産・販売し続け、原宿にあるCD・レコードショップ “BEAMS RECORDS” でカセットセープが再び売れているなどの現実をみると、大勢の競合相手がいるレッドオーシャン市場も、競合相手が「もう」と判断し撤退したのちは、ブルーオーシャンに浄化されるのかも知れません。
「最近売上が思うように上がらない」「この業界に未来がないと」嘆き、隣接するビジネスや業界に移行しようと考える経営者は珍しくありません。これは、英語のことわざで、” The grass is always greener on the other side of the fence.”日本語では「隣の芝生は青く見える」(この言葉は英語が原文だったようです)といった心理状態なのでしょう。
アメリカの臨床心理学者であり、論理療法の創始者だったアルバート エリス(Albert Ellis)は、1962年に発表した論文『Reason and emotion in psychotherapy.』の中で 「人はとかく自分の情緒を混乱させるような理性的でない考えに陥りやすい」ことを指摘し、その理由として「そもそも人間は不完全で過ちを犯しやすい存在であり、また同時にその不完全さを補完することでより良くなりたいという欲求を持っているためである」と発表しました。
ヒトは自身や自社の失敗や欠点は大きく、長所や成功は小さく捉えてしまい、自分の良い面は当たり前と思う「拡大解釈と過小評価」の傾向があり、同時に何か望ましくないことが起こると、それを一般化して「いつもこうだ」と考えてしまう「過度の一般化」により「ネガティブなレッテル」を貼ってしまいます。
このような理由からも「この業界に未来がないと」隣接するビジネスや業界に憧れを感じることは当然の心理といえますが、それは、隣接するビジネスや業界の苦労を知らず、良い点だけを選択して見てしまう認知バイアスによる作用によるものである可能性が高いからです。
唐津市立伊岐佐小学校 緒方理恵 教諭の論文『個のリソースを生かすことを大切にした「自己肯定感」』には、リソースを「物質的・精神的に、また、内面的・外面的に、今そこに既に「有るもの」「できること」「もっているもの」である」と定義づけ、「リソースを生かして、段階を考慮しながら未来解決志向的なアプローチをしていくことは,児童の「自己肯定感」をはぐくむこと につながり、人とよりよくかかわる力の育成に効果的である」とまとめています。
僕は経営者も同様に、物質的・精神的に、また内面的・外面的に、今そこに既に「有るもの」「できること」「もっているもの」を生かして段階を考慮しながら未来解決志向的なアプローチをしていくことが重要であり、自身の会社や業界に対して「うちのやり方は古い」「この業界は斜陽産業だ」などといった「ネガティブなレッテル」を貼らず、客観的で正しい経営判断をしていただきたいと考えています。