106 ”どん底”の状況から抜け出すための思考法
ボクは「自分が嫌いな人」が極端に少ない人間だと思っています。もちろん「好きではない人」はいます。好きではないだけで嫌いではない。それでも、嫌なことをいわれることは人一倍多いと思っています。その理由は、常に”差異化”を目指しマイノリティーな人生を生きてきたからです。そして、自分が「どん底」な状態になった時にも、どこからか救助隊がくることには期待していないような気がします。
この考え方は、オーストリア出身の精神科医、心理学者、社会理論家であったアルフレッド アドラー(Alfred Adler)の概念「個人心理学(アドラー心理学)」に通ずる考え方だと解釈しています。しかし、例えアルフレッド アドラーが正しいと解釈した概念に基づいて生きていたとしても「どん底」は誰にでもやって来るし、当然ボクにも「どん底」がやってきた時期がありました。
そんな時にどう考えれば良いか?多くの本を読んだり、スピーチを聴いたり、セミナーに参加して、「どん底」の状況から抜け出すためのヒントを探しました。そんな場面で最もシックリきたのが、堀江貴文さんがよくいわれる「今を生きろ。」という思考でした。
例えば、3.11の前に東京電力の株式を沢山保有していた人が、3.11後株価が大暴落した時に堀江さんに、損切りするべきか?継続所有するべきか?訪ねたそうです。その時の堀江さんの答えは「現在の価格の株を持っている」という現実だけを見て、過去、損をしたことを考えるなというものでした。確かに損切りするべきか?継続所有するべきか?という質問は、言い換えれば「これからこの株は下がり続けますか?現状維持ですか?上昇しますか?」という質問と同意です。ですから、過去の暴落とは別のお話です。
いわれてみれば当然のお話ですが、私たちは常に現在が「上昇トレンドか?」「下降トレンドか?」過去と現在を線で結んで、その傾斜角度を気にしています。この思考にはいくつかの心理的作用が働いています。例えば、行動経済学でいわれる「損失回避性」もそのひとつです。過去の「利益」と「損失」では「損失」の方がより強く印象に残り、それを回避しようとする行動をとることをいいますが、堀江さんの「東京電力の株式を沢山保有していた人の場合」などは特に損失が大きかったわけですから当然といえるでしょう。
また、過去に「達成できた事柄」よりも「達成できなかった事柄や中断している事柄」を、よく覚えているという心理作用を指す「ツァイガルニク効果」なども過去の記憶を引きずりやすくなる心理作用といえるでしょう。このツァイガルニク効果は、ソビエト連邦の心理学者であり、精神科医であったブリューマ ヴリホヴナ ゼイガルニク(Bluma Wulfovna Zeigarnik)が「目標が達成されない行為に関する未完了課題についての記憶は、完了課題についての記憶に比べて想起されやすい」との事実を実験的に示したことに由来しています。
よく「棚卸しをする」などといいますが、この棚卸しをするというのが堀江さんの「今を生きろ。」という思考に近いのかも知れません。ビジネスに例えるなら、現在のキャッシュフローがいくらで、現在の人材の質量のレベルは◯◯で、現在の仕入先と販売先のレベルは◯◯で、ということを主眼に注力し、前期対比ばかり気にするなということでしょう。「前期赤字だったから頑張らないと今期も赤字だ」とか「前期黒字だったから今期はさらに黒字だ」などと思いがちですが、俯瞰的に見れば精度の低い思考なのかも知れません。
先月決算を迎えられた企業も多いですが、赤字決算であっても、黒字決算であっても、それは決算日に一旦リセットして、現在の自社のリソースに向合い、そのリソースを最大限生かして今後どうするか?をお考えになってみてはいかがでしょうか?