115 経営者に相応しい年齢とは何歳なのか?
日本の経営者の平均年齢は何歳くらいだと思いますか?東京商工リサーチの企業データベース281万社(2015年11月時点)から代表者の年齢データを抽出し分析したデーターでは、昨年より0.2歳延びて、60.8歳になりまた。社長の年齢分布は、特に70代以上の社長の構成比が上昇する一方、30代以下は伸び悩み、社長の高齢化に拍車がかかっていることがわかりました。
さらにこの調査から衝撃的なことがわかりました。じつは、社長年齢と業績の相関では、社長が若年なほど「増収増益」企業の比率が高い傾向がある一方、「赤字」企業率は社長が70代以上ほど比率が高かったと言うことです。さらに、2015年の「休廃業・解散」は、社長が70代以上の企業が全体の4割(構成比46.5%)を占めていることが浮き彫りになりました。*1
社長年齢と業績の相関について詳しく見てみると「増収増益」の比率が最も高かったのは30代以下で37.2%を占めていました。一方、「減収減益」の比率は60代が27.2%で最も高く、次いで70代以上が26.74%、50代が26.71%と続いています。年齢が若い社長ほど時流に乗り、事業を拡大する可能性が高いのに対し、社長が高齢化するほど経済環境の変化への対応が遅く、過去の成功体験へのこだわりや従来の営業モデルからの脱皮が難しく、業績低迷につながっている状況がうかがえます。さらに、黒字企業は40代の構成比が81.6%で最も高く、次いで、30代81.3%、60代80.5%、50代80.4%と続きます。これに対し、70代以上は赤字企業の構成比が20.6%と最も高く、社長の高齢化が業績に影響している傾向が表れています。*1
この調査結果からみると、30歳〜40歳代が経営者として最も良いパフォーマンスを発揮していると言えます。
ところで皆さんは「一万時間の法則」という言葉を聞いたことがありますか?アメリカの心理学者でありフロリダ州立大学心理学部 K.アンダース エリクソン(K. Anders Ericsson)教授と、コラムニストでThe New Yorkerのスタッフライターであるマルコム グラドウェル(Malcolm Gladwell)氏が提唱した「いかなる分野でも1万時間その分野の能力を真面目に追求することによって「一流のレベル」に達する」と言う法則です。
そのマルコム グラッドウェルの原書を、中央大学大学院戦略経営研究科客員教授の勝間和代女史が翻訳された『天才! 成功する人々の法則』によると、「音楽学校でバイオリンを学んでいる生徒を、ソリストになりそうなグループ、プロオケでやっていけそうなグループ、そしてプロオケは無理でも音楽の先生になりそうな3グループにわけて練習量を比較。ソリストになりそうなグループは計10000時間ほどで、練習量が他のグループよりも飛躍的に高い。一万時間より短い時間で、真に世界的なレベルに達した例を見つけた調査はない。まるで脳がそれだけの時間を必要としているかのようだ。*2」と論じています。
ところが、この「一万時間の法則」に反論する方も多く、マイクロソフト会長兼ビル&メリンダ ゲイツ財団共同会長であるビル ゲイツ(Bill Gates)は「一つのことに1万時間費やせばその分野にずば抜けて強くなるという人もいるが、私はそんなに単純だとは思わない。実際には5千時間を費やした後、90%が脱落する。好きになれない、向いていないという理由でだ。そしてさらに5千時間費やした人の90%があきらめる。このような普遍的なサイクルがあるんだ。運だけでなく、続けるだけの熱意も必要だ。1万時間費やした人は、ただ1万時間費やした人ではない。自分で選び、さまざまな過程の中で “選ばれた人” なんだ。」と語ったそうです。
つまり「ある分野で一流になりたいと言う人が100人いたとしたら、1万時間継続してやり続けられる人は1人しかいない」と論じています。私的な解釈をすると、1万時間継続できたと言うことは「1万時間諦めなかった」と言うことですから「諦めない」が成功の秘訣なんだろうと感じます。
さて、「経営者に相応しい年齢とは何歳なのか?」と言うお話に戻しますが、統計的には30歳〜40歳代が経営者として最も良いパフォーマンスを発揮していて、そこに、一流になるために一万時間が必要と考えると、何歳くらいからスタートアップするのが望ましいか?フルタイムで働いたとすると一万時間はおおよそ5年に相当するそうですから、30歳からスタートアップの準備を始め、35歳ころから経営者として本領を発揮し、50歳頃までの約15年間で会社を目一杯成長させることが良いのかも知れません。
今後の日本の発展を考えると、30代経営者をいま以上に創出する社会形成が必要なのでしょう。
*1:株式会社東京商工リサーチ『2015年 全国社長の年齢調査』より
*2:マルコム・グラッドウェル(著), 勝間和代(翻訳)(2009)『天才! 成功する人々の法則』講談社