125 なぜポケモンGOが大ヒットしたのか?その本当の理由
皆さんご存知の通り、ポケモンGOが世界的大ヒットを記録しています。消費活動が低迷する時代に、ヒット商品が生まれることは望ましい反面、ポケモン探しに熱中するあまり事故が発生したり、立入禁止区域への無断立入のトラブルが発生したりと、ついに最新のアップデートではアプリ起動時に「許可無く立ち入ってはいけない場所や建物には、決して入らないでください」と注意喚起を促すメッセージが表示される仕様となったようです。
私はいわゆる「ポケモン世代」ではないので、ポケモンに関する深い知識はありません。しかし、世界的大ヒットの心理的・神経的メカニズムについて興味があり、数日間トライアルをした経験を基に大ヒットの理由を分析してみました。
さて今回のポケモンGOに限らず、ゲームの魅力を語る上で「報酬系(reward system)」といわれる神経系を外しては語れません。「報酬系」とは、欲求が満たされたとき、あるいは満たされることが分かったときに活性化し、快の感覚を与える神経系のことであり、ヒトを含む哺乳類の報酬系は、中脳の腹側被蓋野から大脳皮質に投射するドーパミン神経系(別名A10神経系)で、大脳の「前頭前野(理性中枢)・扁桃体(感情中枢)・帯状回・視床下部・側坐核(快感中枢)・海馬」などと繋がりドーパミンを伝達しています。つまり、ドーパミン賦活作用を持っている覚醒剤やコカインなど依存性を有する薬剤の影響に近い神経系といえます。
この報酬系は、例えば「この仕事を完了したらボーナスがもらえる」など、長期的な報酬を予測することで、疲労や空腹といった短期的欲求を抑えて仕事を優先できるが、当てにしていたボーナスがカットされると、報酬系が抑制され不快さを感じます。また、報酬系神経系の働きが、大脳皮質の可塑性に影響するという報告もあり、動物において中脳に電極を挿入し、その個体がボタンを押すと電流が流れるような装置を作ると、とめどなく押し続けるという報告もあります。*1
スタンフォード大学医学部の研究チームがThe Journal of Psychiatric Researchで報告した『STANFORD: GENDER ISKEY IN LOVE OF VIDEOGAMES』によると、男女22人にfMRI(機能的磁気共鳴画像法)装置を接続し簡単なゲームを行う実験を行った結果、女性と比べて男性の方が、中脳皮質辺縁系の中心の活性化が顕著で、つまりは女性と比べて男性の方ビデオゲームによってもたらされるような刺激を受けると、脳内の報酬が活性化することが分かったと発表され、さらに、2007年のHarris Interactiveの調査では、ゲームに中毒していると感じる男性は、女性の約3倍に上ると発表されました。*2
このレポートでは、その理由を『男性は狩りがうまいという進化的特質を踏まえれば、このデータは意外なものではないということだ。いわゆる”殺し屋の本能”がまだ存在していて、ゲーム中に発揮するチャンスがあると、そうした本能が働くのだろう。』*2と何とも恐ろしい記述があります。
さて、お話をポケモンGOに戻して、ポケモンGOについて公式サイトでは、『Pokémon GO』は、位置情報を活用することにより、現実世界そのものを舞台として、ポケモンを捕まえたり、交換したり、バトルしたりするといった体験をすることのできるゲーム!*3と解説をしています。さらに、機能の解説として・・・プレイヤーは、ポケモントレーナーとして、現実世界のいろいろな場所を歩き、探索して、ポケモンを捕まえることができます。ポケモンをたくさん見つけて、捕まえることにより、ポケモントレーナーとしてのレベルが上がります。ポケモントレーナーとしてのレベルが上がると、強いポケモンに遭遇できるようになり、『ポケストップ』では、より良い道具が手に入ることもあります。ポケモンの中には、進化するものもいます。さまざまなポケモンを進化させて、ポケモン図鑑の完成を目指そう!ポケモントレーナーたちは3つのチームに分かれてバトルを繰り広げ、『ジム』を取り合います。『ジム』に、プレイヤー(自分)のポケモンを配置すると、その『ジム』に所属できます。『仲間チーム』の『ジム』か、どのチームのポケモンも配置されていない『ジム』(『無所属のジム』)に、ポケモンを配置することができます。『無所属のジム』に、ポケモンを配置すると、その『ジム』はプレイヤーが参加しているチームのものになります。『仲間チーム』の『ジム』をどんどん増やしていこう。・・・とあります。
私の主観ですが、ポケモンGOを始めた序盤期はポケモンも容易に捉えられポケモンGOに関わる時間に比例的にレベルが上がります。しかし、レベル10を過ぎたあたりから、ポケモンを捉える難易度が上がってきます。つまり、それまで比例的に向上してきたレベル(評価)の向上が鈍化してきます。線グラフにすると放物線の形のように、期待していた成長線と現実の成長性に差異が生まれてきます。
そこで「あれ?」と思いそれまで通り続ける方と、期待していた成長線に近づけようと「もっと頑張ろう!」と思う方が出てきます。その時点で東京であれば錦糸公園や名古屋であれば鶴舞公園といったポケストップが多くある場所に出向いたりする方もいれば、時間はないがお金はある方が課金を始めます。実際に海外のゲームサイト「Reddit / Imgur」には、レベル30に到達するとCP(Combat Point)が高いモンスターばかりが出現するようになるとの記述もあります。*4
ゲームの課金制については、いわゆる「ガチャ商法」が社会問題になった折に、射幸性が強く、欲しいアイテムが出るまでに大金をつぎ込んでしまうケースが多発し批判の的となった経緯も記憶に新しく、ポケモンGOの発表会で石原恒和社長は「本当に多くの人が薄く広い課金によって皆がフェアに遊べるような課金方法を考えていきたい。具体的には言えないが少数の人間が射幸心高く、課金するという方向とは真逆の仕組みを考えていきたい」と、射幸性の高い課金システムは導入しないことを宣言していました*5 から、「ガチャ商法」のような社会問題に発展するようなことはないとしても、レベルアップにつれて課金のニーズが高まるといえるでしょうし、以前このブログでも書いた「コンコルド効果(Concorde effect)」または、「埋没費用(sunk cost effect)」という、それまでの投資を惜しみ、投資をやめられない状態を指す心理的状態に陥り課金をしてしまうことは十分考えられます。
ポケモンGOの「捕まえる、交換する、バトルする→レベルが上がる→図鑑が完成して行く」これらのルーチーンワークは正しく報酬系を刺激するメカニズムであり、レベルアップと共にコンコルド効果は高まる続けると考えられます。
ヒトとして、特に男性がポケモンGOに熱中することは生態学的に当然のことかも知れませんが、報酬系がドーパミン神経系であるということから言えば、ポケモンGOをやり過ぎると、半ば条件反射に近いレスポンデント条件づけ(古典的条件づけ)が形成されて、自分の意思ではその行動をやめることができない、やめようとすると生理的(身体的)・精神的な離断症状が出てくる「依存症」に陥ってしまうリスクもあるでしょう。つまり、アルコール・タバコ・ギャンブル或いは薬物依存症の傾向がある方がハマりやすく、反対にポケモンGOに熱中するヒトは依存症に陥る可能性が高いともいえるかも知れません。
冒頭に書いた通り、消費活動が低迷する時代にヒット商品が生まれることは望ましいことだと思いますが、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」何事もやり過ぎにはご注意ください。
*1 Wikipedia日本語版『報酬系』参照
*2 Earnest Cavalli (2008)『STANFORD: GENDER ISKEY IN LOVE OF VIDEOGAMES』WIRED
*3 『Pokémon GO』公式サイトより引用
*4 小千谷サチ(2016.7.21)『たった2週間で「高レベルプレイヤー」誕生! その実力にネット民も戦慄&質問が続々集まる』ロケットニュース
*5 東洋経済ONLINE(2016.7.31)『ポケモンGOが切り開く「スマホ課金」の新境地』東洋経済新聞社