009 とっても残念な ◯◯大学◯◯教授
Facebookの私のお友達の中に「残念な大学教授」がいらっしゃいます。何が残念かというと、時折Facebookで「私は多忙である」ということを具体的なスケジュールとともに主張されるからです。
こういう「自分は忙しい」とか「自分のスケジュールは目一杯詰まっています」といったことを主張する行為を社会心理学では「セルフ・ハンディキャッピング (Self-handicapping)」という概念で語られます。社会心理学者である元 東京大学教育学部(現 学習院大学文学部 心理学科)の伊藤 忠弘 教授は、論文「セルフ・ハンディキャッピングの研究動向」の中で、セルフ・ハンディキャッピングのことを次の通り論じておられます。
「あらかじめ主張した、あるいは実際に作り出したハンディキャップのために、たとえ失敗した場合でも、失敗の原因がそのハンディキャップのせいにされるために、自分自身に対する否定的な影響を最小限に止めることができる。また、成功した場合には、ハンディキャップを乗り越えて成功したということで自分の能力の高さが割増されて推測されて、自己イメージの高揚につながる。」
確かに「残念な大学教授」は「自己イメージの高揚につながる」という点に合致しているのかも知れません。そして「残念な大学教授」に限らず、僕たちは 「昨夜余り寝てないから…」といいながら試験に臨んだり、「昨夜は遅くまで飲んでいた…」といいながらゴルフに参加することがあります。そして、 深層心理では「本当はもっと実力がある」、いや「本当はもっと実力があるように見せたい」という心理が働いています。このことを伊藤 忠弘 教授は「先制的な言い訳行動」と表現しています。
心当たりのある方は、恥ずかしい気持ちになってきたのではないですか?でも「セルフ・ハンディキャッピング」のデメリットは、恥ずかしい気持ちどころではなく、もっと大きなデメリットがあります。それは「実際の遂行の成功確率が低下する」ということです。その根拠をHiggins.R.L.は論文 「Self-handicapping」で「達成よりむしろ自我防衛に動機づけられているため、失敗が十分に説明され、成功が自尊心を高める限りにおいて、自ら進んで失敗を受け入れている」と論じています。簡単にいうと「理由があるから失敗しても仕方がない」と考えているということです。
さらに驚いたことに、Rhodewalt, Saltzman, & Wittmer は、セルフ・ハンディキャッピングを主張する傾向にあるゴルファーと、主張する傾向が少ないゴルファーが、重要な大会の前に行う練習量とコンディションに関する調査を行いました。その結果、重要な大会の前に主張する傾向が少ないゴルファーの練習量が増えるのに対して、主張する傾向にあるゴルファーの練習は増加しませんでした。さらに、主張する傾向にあるゴルファーは、重要な大会の前に「コンディションが好ましくない」と報告しました。
この研究結果からすると、多忙であると主張する残念な大学教授は、大切な講義や講演、学会の前に研究をしていない傾向にあるといえるのかも知れません。
さて話を変えて、この「セルフ・ハンディキャッピング」をビジネスに活かすと考えると、成功の確率を高めるために「私は忙しい」などという「先制的な言い訳行動」をしないことにつきます。「私は必要な準備をしてきた」と思い、発言し、プレゼンテーションや営業活動をおこなうことをお勧めします。
書籍「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」には、主人公のさやかちゃんが受験直前に「やることはやった」と思ったとあります。そう思わせた青藍義塾の塾長坪田信貴先生は、さすがに教育心理学がよくわかっておられます。坪田信貴先生がさやかちゃんの英和辞書に書いたこの一文 こそが「セルフ・ハンディキャッピング」を超えた成功の確率を上げる方法です。
“where there’s a will, there’s a way”(意志あるところに道は開ける)