014 僕が「あなたの意見は間違っている」という学友や先輩が好きな理由

じつは、以前に書いたブログに誤った情報を掲載しましたので、ブログを読んでいただいた皆さんに、お詫びをしなければなりません。「003 Apple Watchは売れない」の文中で「OMEGA Speedmasterは自動巻きなので、クルーが腕につけている限り止まることはありませんでした」と書きました。実際は、民生品は自動巻きで、クルーが腕につけていたものは手巻きでした。確かに無重力状態では自動巻きの機能が働かないことは、冷静に考えると分かることでした。すでにブログ本文は訂正させていただきましたが、読んでいただいた方にはお詫びいたします。


じつは、この件は修士課程の先輩からのご指摘でした。今回のように「あなたの意見は間違っている」というのは、研究発表の場面で頻繁にある意見です。特に学会での研究報告や、論文の口頭試問などでは、敵意を感じるほど強く意見をされることも珍しくありません。しかし、学術の世界では先行研究があって、それが正しいか?または先行研究を補足するべき例外はないのか?などの研究をすることで、真実が探求されていくわけで「先行研究を行った研究者は劣っている」などと思うのではなく、間違った研究結果があったからこそ真実への探求が進んだと、むしろ先行研究を行った研究者に敬意を感じている研究者が多いと僕は感じています。


冒頭の「自動巻きか手巻きか」ということについて、改めて考えてみると「僕のブログには間違った情報が掲載されている、だから僕は信用できない」と思う方がいても当然です。しかし、訂正をすることで、より真実に近づいたわけですから、ブログ自体の質は向上したといえます。ですから、この指摘をして下さった先輩に僕はとても感謝しています。あなたが「あなたの意見は間違っている」といわれたら、どう思いますか?


深層心理の研究を行ったカール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung)や、無意識の研究を行ったジークムント・フロイト(Sigmund Freud)と並ぶ精神科医・心理学者に、オーストリア ウイーン生まれのアルフレッド・アドラー(Alfred Adler)という先生がいらっしゃいます。amazonベストセラーNo.1になった「嫌われる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教え」のアドラー先生だというと分かりやすいかも知れません。このアルフレッド・アドラー先生が創始し、後継者たちが発展させてきた心理学の体系を「アドラー心理学」といいます。


このアドラー心理学の概念において「あなたの意見は間違っている」といわれる場合の心理について、「あなたは間違っている、私は正しい」という心理状態は、自分と相手が縦の関係になっている。縦の関係である限り、人間関係はうまくいかないと論じ、大切なことは建設的か?非建設的か?ということで「横の関係」で、意見を受け入れているかということが大切だと論じています。


例えて説明すると、あなたの前にAさんとBさんがいます。Aさんはあなたに対して「あなたの意見は間違っている」といいました。でもBさんは無言でした。この状態で「Bさんは好きまたは好きでも嫌いでもないけど、Aさんは嫌い」と思う方が多いのではないでしょうか?でも、じつはBさんも「あなたの意見は間違っている」と思っていたけど口には出さなかったと、あとで知ったら、あなたの感情はわずかでも変化しますよね?それほどAさんとBさんに対する感情は不安定だということです。つまり、意見と人格は分けて考えるべきだということです。「あなたの意見は間違っている」という意見を誰がいったかではなく、客観的にその意見が正しいか?正しくないか?が重要であり、そのことで、AさんとBさんに対して感情の差を抱くことは適切でないということです。あなたも、ビジネスの場面において、顧客や上司との意見が対立し、意見と人格を分けづに意味なく敵意を持つことはありませんか?


そして、意見だけでなく行動もまた同様なのかも知れません。「孔叢子」刑論にある孔子の言葉「古之聴訟者、悪其意、不悪其人」や、聖書(ヨハネ福音書8章)の「罪を憎んでも人を憎まず」という言葉も、アドラー心理学の概念に通じることなのかも知れません。いずれにせよ、僕は「あなたの意見は間違っている」といって下さる先生、先輩、学友が大好きです。その意見が客観的で建設的な場合に限りますが、そのことで僕の研究は真実へ近づくわけですから・・・


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