104 iPhone SEの発表で考えてみた”名倉理論”(笑)

昨年の8月17日「9月9日に発表されるだろうiPhone 6cが大ヒットする理由」というブログを書きました。「4インチサイズのiPhone 6c がヒットすることは間違いない」という内容でしたが、それから約半年後の3月21日に、ようやく「4インチサイズのiPhone 」が発表されました。残念ながら名前は”6c”ではなく”SE”でしたから予測的中とは言えないでしょう。

 

ところで iPhone のように、それまでなかった新しい商品やサービス、技術や知識、ライフスタイルなどが登場したとき、早い段階でそれを購入・採用・受容する人々のことを、米国の社会学者であるスタンフォード大学 エベレット M ロジャーズ(Everett M. Rogers)教授は、1962年に発刊した著書『Diffusion of Innovations(イノベーション普及学)』で、アーリーアダプターと命名しました。

 

さらに、まだ普及していない新しいモノやコト(イノベーション)がどのように社会や組織に伝播・普及するのかの実証的研究を行い、採用時期によって採用者を、イノベーター・アーリーアダプター・アーリーマジョリティ・レイトマジョリティ・ラガードの5つのカテゴリに分類しました。

 

イノベーター(革新的採用者)は、市場全体の2.5%を構成する冒険的で新商品が出ると進んで採用する人々を指します。商品のベネフィットはほとんど無視しながら、商品の目新しさ、商品の革新性という点を重視して購入・採用します。

 

アーリーアダプター(初期採用者)は、市場全体の13.5%を構成します。社会と価値観を共有しているものの、流行には敏感で、自ら情報収集を行い判断する人々です。「オピニオンリーダー」とも呼ばれ、商品の普及の大きな鍵を握るとされています。

 

アーリーマジョリティ(初期少数採用者)は、市場全体の34%を構成する新しい様式の採用には比較的慎重な人々です。慎重派ではあるものの、全体の平均より早く新しいものを取り入れます。アーリーアダプターからの影響を強く受け、新製品や新サービスが市場へ浸透する為の媒介層であることから、ブリッジピープルとも呼ばれています。

 

レイトマジョリティ(後期多数採用者)は、市場全体の34%を構成する新しい様式の採用に懐疑的な人々です。周囲の大多数が使用しているという確証が得られてから同じ選択をします。新市場における採用者数が過半数を越えた辺りから導入を始める為、フォロワーとも呼ばれています。

 

ラガード(採用遅滞者)市場全体の16.0%を構成する最も保守的な人々です。流行や世の中の動きに関心が薄く、イノベーションが伝統化するまで採用せず、最後まで不採用を貫くヒトもいます。

 

この理論をグラフ化したものを「ロジャースの採用者分布曲線」といい、新事業・新商品導入の際の製品普及のプロセスとしてとらえる普遍的な理論だと語られてきました。

 

この理論に沿って考えると、イノベーターには目新しさを訴求し、アーリーアダプターには導入におけるメリットを訴求し、アーリーマジョリティには実績を訴求すると言ったように、狙うターゲットに合わせた商品開発やマーケティング戦略を考えることができます。

 

しかも、イノベーター:2.5%、アーリーアダプター:13.5%、アーリーマジョリティ:34%、レイトマジョリティ:34%、ラガード:16%、というように、各分類の正確な割合が決まっていて、さらに「どんな新商品の普及でも同じ割合と考えてよい」と言うのですから驚きます。

 

つまり、100人の市場があれば、イノベーター:2人、アーリーアダプター:14人、アーリーマジョリティ:34人、レイトマジョリティ:34人、ラガード:16人、いると言うことになります。

 

その「ロジャースの採用者分布曲線」には大きな落とし穴がると、アメリカのマーケティング コンサルタント ジェフリー A ムーア(Geoffrey A. Moore)が、1991年に発刊した『Crossing the Chasm: Marketing and Selling High-Tech Products to Mainstream Customers(深淵を越えて: 主流顧客を対象としたハイテク製品の市場調査と販売)』で、「ロジャースの採用者分布曲線」をベースにハイテク市場を分析し、初期市場を形づくるアーリーアダプターと、主要市場となるアーリーマジョリティの間にはキャズム(深い溝)があり、ほかの産業とは異なるマーケティング・アプローチが必要だという「キャズム理論」を提唱しました。判りやすく言うと「アーリーアダプターからアーリーマジョリティには発展するには大きな溝を越えなければない」と言うことです。

 

このエベレット M ロジャーズの「ロジャースの採用者分布曲線」も、ジェフリー A ムーアの「キャズム理論」も、いずれも多くの経営者やマーケティング担当者、あるいは学者が一般論として語っていますが、僕はこの理論は間違っていると感じています。

 

正確に言うと、1962年時点では「ロジャースの採用者分布曲線」は正しくて、1991年時点では「キャズム理論」は正しかったが、スマートフォンが普及し、欲しい情報が瞬時に入手できる2016年の日本には該当しないと考えています。

 

たとえば、今回の「4インチサイズのiPhone SE 」の場合、北米時間2016年3月21日、カリフォルニア州クパチーノで開催されたスペシャルイベントで、Appleは商品発表をしましたが、その模様は全世界に同時配信されました。

 

さらに、翌朝までにオンラインメディアが記事に仕上げ、多くの方が中継者となってSNSなどで情報が拡散されました。つまり、商品の供給側以外の少なくともイノベーター・アーリーアダプター・アーリーマジョリティは、同時に情報を入手しています。これはBD(Before Digital)時代と、AD(After Digital)時代では、変化して当然ではないでしょうか?つまり、イノベーターからアーリーマジョリティまでが大きなボリュームとなり一体化していると僕は考えています。

 

そして、それとは別に、イノベーター・アーリーアダプター・アーリーマジョリティ・レイトマジョリティ・ラガードの5つのカテゴリについて日本人は偏見を持って見ているのではないかと感じています。僕は、自分が大きな概念や一部だけを知っていることを体系的に、詳細に、正確に語るヒトに対して優れていると感じることがありますが、自分が全く知らないことを語られ理解が出来ないと優れていると感じることができません。

 

つまり、ラガード層から見ると、自分たちのことを「常識者」と感じ、レイトマジョリティ層が「天才」に見え、理解が難しいアーリーマジョリティは「非常識者」に見え、理解不能なアーリーアダプターやイノベーターに至っては「変態」や「異常者」と感じてしまうのではないでしょうか?この”名倉理論”に異論がある方と議論をしたいので、異論のある方からのご連絡をお待ちしております。(笑)

 

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