126 ポケモンGOでも大赤字!iPhone 6sも大失速!で、どうする経営者?
前回のブログ「125 なぜポケモンGOが大ヒットしたのか?その本当の理由」で、ポケモンGOが大ヒットしていることを書いたばかりですが、2016年7月27日に任天堂が発表した第1四半期決算によると、最終損益はマイナス245億円、売上高は619億円で、これは前年度と比較するとマイナス31.3%だったそうです。
赤字の原因はゲーム機の販売台数減少と、円高による海外での利益の減少にあるようですが、ポケモンGOのヒットがなかったら・・・?と考えると人ごとながらゾッとします。
しかし、ポケモンGOのアクセサリーである「Pokémon GO Plus」は、アメリカでは即日完売。オークションサイトでプレミアムがついて流通されているそうですから、発売が延期されている日本でも発売されれば、第1期で課題となったゲーム機の売上げにも貢献できるでしょう。
ところで、「Plus」といえば、最近「iPhone 6s とiPhone 6s Plus」が売れていないというレポートを、2016年7月25日にGIZMODOが『iPhoneの落ち目が止まらない! ついに日米中すべてで販売不振に…』というタイトルで発表しました。
レポートによると調査会社Kantar Worldpanelは、今年3~5月の米国市場におけるスマートフォン販売状況を調査した最新レポートを発表し、米国内販売台数の16%が、Samsungの「Galaxy S7とGalaxy S7 Edge」で占められ、iPhone 6sとiPhone 6s Plusを合計した販売台数を抜き去ったことを明らかにしています。
防水性能やワイヤレス充電機能などiPhone 6sとiPhone 6s Plusにはない機能がSamsungのGalaxy S7シリーズには搭載されており、世界的ヒットになっているようです。
さらにKantar Worldpanelは、世界各国のスマートフォンOSシェアの最新レポートも同時に発表し、米国内では、iOSのシェアが今年5月に初めて3割を切り、さらに深刻なのは、Appleが重要市場と位置づける中国でもiOSのシェアは落ち続けており、ついに全体の2割を下回ったそうです。
日本でも今年5月の最新レポートでは、Androidユーザーが全体の58.8%と急増したのに対し、iPhoneユーザーは40.6%に後退。新モデルの「iPhone SE」を投入するもiOSのシェア巻き返しには至らなかったようです。*1
AndroidといえばSamsungだけでなく、SONYのXperiaシリーズもCDを超える高音質「ハイレゾ」にノイズキャンセリング対応イヤホンを追加したりと、音質に関してはiPhone 6sとiPhone 6s Plusより先攻していますし、Huaweiもドイツのカメラメーカーであるライカと共同でカメラを開発し、2つのカメラを用いるデュアルカメラ機構で、簡単な操作で表現力の高い写真を撮影できる「Huawei P9」で評価を得ています。
今後発売されるだろうiPhone 7では、防水性能・ワイヤレス充電機能・デュアルカメラ機構が搭載されるでしょうが、周回遅れ的なイメージは否めないことでしょう。また、PCの分野でも、GoogleのChrome bookは3万円台なのに対して、AppleのMac Book Airは10万円台からです。もちろん機能は異なりますが価格面で見れば比較になりません。
しかしここでも「Pokemon GO」の大ヒットで、Appleは向こう1~2年で30億ドルの利益を得るだろうと証券会社Needham & Coが予想しています。その理由iPhoneユーザーはAppleのアプリストアからポケコインを購入するからだそうです。そして、米国でPokemon GOがリリースされた7月6日以来、7月19日の取引終了時点までにAppleの株価は5%上昇し、時価総額は約250億ドル増え、任天堂の株価はほぼ2倍に急騰している*2と発表しています。
任天堂もAppleも今回はポケモンGOに救われた結果になりましたが、その影響がどこまで続くか?を考えると、君島達己 社長も、ティモシー・ドナルド・“ティム”・クック(Timothy Donald “Tim” Cook)CEOも、笑ってはいられないことでしょう。
さて最近では、今回のように多くの商品の寿命が、短くなっていると感じています。商品の寿命のことをマーケティング的には「プロダクト・ライフサイクル(Product life cycle PLC)」といいますが、商品が発売されて、その寿命を終えるまでには「導入期・成長期・成熟期・衰退期」の4つの段階があると言われています。
また、スタンフォード大学の社会学者であるエベレット・M・ロジャース(Everett M. Rogers)教授が1962年に『Diffusion of Innovations』(邦題『イノベーション普及学』)で提唱したイノベーションの普及に関する理論「イノベーター理論」では、イノベーター(Innovators 革新者)・アーリーアダプター(Early Adopters 初期採用者)・アーリーマジョリティ(Early Majority 前期追随者)・レイトマジョリティ(Late Majority 後期追随者)・ラガード(Laggards 遅滞者)と、5つの段階があると提唱しました。
4つの段階にせよ、5つの段階にせよ、いずれのプロダクト・ライフサイクルの概念においても近年短期化されおり、中小企業庁もWEBサイトにて、『過去に売れていたが現在は売れなくなった商品(ヒット商品)について、そのヒット期間をみると、1980年代、1990年代と近時になるにつれて短くなっている。また、年代ごとに売れなくなった理由をみると、「顧客志向の変化、ライフスタイルの変化などにより、ニーズそのものが無くなった」「同種の商品で、より低価格品が現れた」「代替品が現れた」という理由が大部分を占めるが、近年は「同種の商品で低価格品が現れた」の割合が上昇している。一度ヒット商品を開発したとしても、そこから収益を得られる期間は短くなっており、以前にも増して先を見据えた製品開発活動を行わなければならない状況となっている。』*3と記述しています。
確かにこれらの記述は正しいと思いますが、私は「社会の成熟化とインターネットの普及に原因がある」と考えています。未成熟な社会では新しい商品が、その商品を求める消費者に行き渡るのに時間がかかりますが、成熟化した社会では製品そのものの需要の絶対数が少ないため、すぐに需要が飽和状態となってしまいます。また、新しい商品の発売についての情報は、全世界時差なく伝わるようになり全世界で同時に需要の波が立上がり、反面、飽和の引き波も全世界同時に来ます。
では経営者はこのプロダクト・ライフサイクルの短期化に対してどう対処すれば良いのか?世の中では、意思決定を速くすること、製品のマーケットインを速くする、コストダウンを速くする、絶えず新製品を開発するなどの意見もありますが、何れも根本的な対応策とは言い難いと感じます。
私は、あえてビッグヒットを狙わないことしか対策はないと考えています。限られたターゲットやマーケットを狙い、過剰供給をすることなく、少しづつアップグレードされた商品を発売して行く。つまり「小さなビジネスを数多くやる」多くのヒトは知らないが、知ってるヒトは知っていると言ったビジネスが将来的なビジネスだろうと考えています。もしも、御社のビジネスがそんなビジネスなら御社の未来は明るいでしょう。
*1 GIZMODO(2016.07.25)『iPhoneの落ち目が止まらない! ついに日米中すべてで販売不振に…』
*2 Thomson Reuters.発表
*3 『商品ライフサイクルの短期化』中小企業庁