079 アンケート調査に入れるべき「究極の質問」とは?
この時期になると、修士院生の「修士論文を提出しました」というメッセージを、SNSで目にすることが多くなります。
度数分布、平均、分散、標準偏差、カイ2乗検定、t検定・分散分析、相関係数、単回帰、などの統計解析と葛藤しながら、SPSSやExcelを駆使して自身の課題を紐解いて行くことは大変なことです。
しかし、論文執筆の場面に限らず、マネージメントの現場でも、重回帰分析、プロビット分析、コンジョイント分析、判別分析、ロジスティック回帰分析、因子分析、クラスター分析、コレスポンデンス分析、多次元尺度法、共分散構造分析などの多変量解析を必要とする場面があります。
ボクは仕事柄、CSポートフォリオ分析などを使って、顧客の潜在需要を分析したりします。その作業でデータの集計や分析を行うことは当然ですが、その前にどのような質問を設定するのか?調査票の設計を含むアンケート全体の設計が最も大切になってきます。
アンケートは「ひとえに尋ねるだけ」というような単純なものではなく、そこにはデリケートな人間心理の理解が必要です。質問者を誘導するような質問になっていないか?質問の順序や質問の量は適切か?回答はどのような選択方法にするのか?小さな設計ミスが、結果を大きく変えることも珍しくありません。ですから、調査票の設計には注意が必要です。
では、実際にどのような質問が適切なのか?それはアンケートの目的によって様々ですが、その中でボクが頻繁に盛込む質問がこれです。
「あなたがこの会社(商品・サービス)を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」
と非常にシンプルな質問です。この質問は、ベイン・アンド・カンパニー社のフレッド ライクヘルド氏の「顧客ロイヤルティを知る究極の質問」という、顧客のロイヤルティを測るための指標のひとつであるNPS(Net Promoter Score)の解説書において紹介された質問です。
この問いに対する答えを、0~10の11段階で調査し、10~9をプロモーター(推奨者)、8~7をニュートラル(中立)、6以下をデトラクター(非難者)に分類し、プロモーターが占める比率からデトラクターが占める比率を差し引いた数値をNPS指標として評価する設計になっています。プロモーター、ニュートラル、デトラクターと3分類し、それぞれのポジションに対しての対策と、PDCAを目指します。
ここまで解説すると、書籍のタイトル通り「究極の質問」に感じますが、果たしてそうでしょうか? ヒトは誰しも友人や同僚に知られたくない消費があるのではないでしょうか?例えば、アウトレット、LCC、ビジネスホテルと言ったセカンドライン的な商品やサービスはどうでしょうか?
また、商品やサービスを友人や同僚に薦める場面で、実際に自分が頻繁に購入や利用しているものより、ステータスが高いものを薦めたいと思うことはないでしょうか?こう考えると「究極の質問」でさえ、究極ではないと感じます。
ところで、総務省の調べによると、昨年の主なメディアの平均利用時間では、全年齢層に於いて平日のテレビ(リアルタイム)が170.6分、インターネットが83.6分と意外な結果がWEBで公開されています。もしもこの回答をえるための質問が、「あなたは平日テレビを何時間くらい見ますか?」と「あなたは平日インターネットを何時間くらい利用しますか?」と言う質問だったら、正しいデータが採れるでしょうか?
別の調査で、NHK放送研究所が、WEBで公開しているデータによると、インターネット利用者の半数以上が、テレビを見ながらインターネットを利用しているそうです。つまり、この”ながら”の方の利用時間は重なっているということです。
さらに驚いたのが、PCでECサイトなどを見ながら、スマホでメッセージをチェックするなど、インターネットとインターネットを”ながら”で利用する方が多いと報告されています。ここまでくると「利用時間」を評価軸にすることにすら疑問を感じます。この調査では、テレビを観ながら、PCでブログを書いて、スマホでSNSでメッセージの交換をするヒトはどのように回答したのでしょうか?
マーケティングリサーチの方法も時代の変化と共に柔軟に変化しないことには、真実を見誤り、寧ろ「アンケート調査などしない方が良かった」という事態を招く可能性があることを意識する必要があります。