016 大学教授だけではなく経営者にも知ってほしい教育心理学の大切さ
僕が通った大学院では、S・A・B・C・Dの5段階で成績を評価されていました。同様に多くの学校でも5段階評価という評価制度を導入している学校が多いのではないでしょうか?統計学を学んだことのある方なら「正規分布」をご存知だと思いますが、この5段階評価を相対的に評価するためには「正規分布」を標準正規分布(平均が0、標準偏差が1の正規分布)で考えると分かりやすくなります。テストの成績が正規分布する場合は以下のようになります。(実際は正規分布になりませんが)
偏差値 35未満 6.7%
偏差値 35以上45未満 24.2%
偏差値 45以上55未満 38.3%
偏差値 55以上65未満 24.2%
偏差値 65以上 6.7%
5段階をつけるのに正規分布から作った割合を使うのは、ルールを作るための一つの目安です。少し分かりやすい表現をすると、例えば100人の学生がいたとすると、S=7人・A=24人・B=38人・C=24人・D=7人になるように評価すると相対的な評価になるという意味です。しかし、実際は正規分布になるとは限らないので、こういう割合にすることが統計的に妥当であるとか、妥当でないとかいうことはできませんが、Sの学生が極端に多いと評価が甘いということになるし、Dの学生が極端に多いと評価が厳しいということになります。これは大学教授や教育者だけでなく、経営者や上位者の方々が従業員の評価をされるときも同様です。
ところで評価とは、そもそも評価と一対である測定と共に、発達領域、教授・学習領域、人格・適応領域と並ぶ、教育心理学の主要な四本柱のうちの一つです。アメリカの心理学者であるコロンビア大学のエドワード・L・ソーンダイク(Edward L. Thorndike)教授が、20世紀の初頭に測定法を提唱したことから始まったといわれています。 そして、絶対評価(グレイサー)、完全習得学習(キャロル、ブルーム)、適正処遇交互作用(クロンバック)、形成的・総括的評価(スクリバン)といった理論が1960年代に次々と提唱され、教育評価の考え方の基盤と理論が確立されてきました。東京学芸大学 学校心理教室 岸 学 教授は、教育評価を「情報のフィードバック」として、次の通り論じておられます。
『 教授者が学習者に対し、どこまでわかっているか、どこが間違っているか、これからどのような学習をするかという情報をフィードバックすることであり、学習者は、この情報を元に、正しい自己評価をし、何をどう学習していけばよいかの指針を自分で作り上げることができます。そのためにはわかりやすいフィードバックが必要となります。
教授者は、個々の学習者の学習指導をどのように行うかを決めるために必要な情報を得るために必要であり、学期や単元が始まる前には、学習者のレディネス(学習準備状態)を把握し、指導内容の方針を決めるために用い、また指導途中ではどの程度理解が進んでいるかの把握に用い、指導後では指導内容、方法はどうであったかを客観的に把握するのに用います。これらの把握した情報を元に、次の学期、単元、学年に向けて指導方針や方法、教材などを決めます。』
つまり、学習者に対してどこまでが理解できているかを教えるもので、教授者は、学習者の理解度を参考にして、自分の教授法が適切であるかどうかを判断する材料にもなるということで、さらに簡潔にいうと「学生の評価は、教授の教え方の評価でもある」と論じておられるわけです。
これも、大学教授や教育者だけでなく、経営者や上位者の方々が従業員の評価をされるときも同様です。岸 学 教授の教育評価を妥当だと考えるなら、低い評価の従業員ばかりだと思っておられる経営者や上位者の方々は、ご自身のご指導もまた低い評価に価するのだと考えるべきなのではないでしょうか?