025 ピース又吉さんの「火花」が芥川賞に選ばれたことが大きく報道された理由
先々週、お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さんの小説「火花」が、第153回芥川賞に選ばれたことは、ニュースや新聞などでご存知の方も多いと思います。では、ここで質問ですが、同時に芥川賞に選ばれた羽田圭介さんと直木賞に選ばれた東山彰良さんについては、どれくらいの方がご存知でしたか?おそらく、羽田圭介さんと東山彰良さんについては多くの方がご存知なかったし、ニュースや新聞などで報道されても記憶に残っていないのではないでしょうか?もちろん、羽田圭介さんと東山彰良さんに比べて又吉直樹さんの方が、これまでもマスコミの登場回数が多く、親しみがあったということも大きいですが、僕は、そこに「ゴーレム効果」が作用していると感じています。
ゴーレム効果は、ノンピグマリオン効果(Nonpygmalion effect)ともいわれますが、その起源になっているのが、ピグマリオン効果(pygmalion effect)という教育心理学における心理的行動の概念です。これは、1964年にアメリカの教育心理学者ロバート ローゼンタール(Robert Rosenthal)とレノア ジャコブソン(Lenore Jacobson)が行った実験から得られた概念であり、教師が生徒の潜在的な能力を評価して、期待を大きくすればするほど、学習成績が向上しやすくなるという概念で「教師期待効果」といわれることもあります。このピグマリオンという名前は、ギリシャ神話を題材にとって書かれた古代ローマのオウィディウスの『変身物語 第10巻』のエピソードにちなんだものだそうです。ピグマリオン王がある女性をかたどった彫像を好きになってしまい、その彫像が実際の人間(女性)になったらいいのにと思っていたところ、その願いを聞いたアフロディテの神が彫像を人間に変身させてしまったのです。ピグマリオンの「女性の彫像を人間化して欲しい」という願望と期待が、実際に現実になったということがピグマリオン効果の由来だそうです。またピグマリオン効果は、提唱者の名前を取って「ローゼンタール効果」といわれることもあります。
この実験では「学期のはじめに特別なテストを実施し、今後成績が伸びる可能性が高い生徒が誰なのかを担任の教師に教えたが、実際には、これらの生徒は実力に関わらず無作為に選ばれただけの生徒であった。にも関わらず8ヶ月後に再びテストを実施すると、この有望だとされた生徒は他の生徒よりも、実際に成績が伸びていた。」という結果が得られました。さらに、ニュージャージー州立大学のアリソン スミス(Alyson Smith)博士が行った、小学校6年生から高校3年生までの500名以上の生徒を対象にした調査でも、先生が「この生徒は数学が伸びると思い込んでいると、その生徒の数学の成績が33%から54%も伸びることが明らかにされた」という報告もあります。
教師・先生から「お前ならきっとできる・勉強すれば良い成績を取れるはず」という信頼や期待を寄せられることで、勉強に対する意欲が普段よりも引き上げられて、自分ならできるという自己効力感(セルフエフィカシー)も高まっていると考えることができるという概念ですが、教師と生徒との間に一定の信頼関係が成り立っていないと効果が出にくいことから、教師が自分の能力を信じて期待を掛けてくれることが「自己評価の向上・学習意欲の増進・不安感の軽減」に役立っていると推測されています。ノンピグマリオン効果つまり、ゴーレム効果は、人に対し悪い印象を持ち接することにより、その印象が良い印象を打ち消して悪い影響のほうが勝ってしまい、悪い人と実際になってしまうというピグマリオン効果とは正反対の意味を持つ概念です。
お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さんは、仕事がら「アホな人間である」と表現もしていたし、見る側も「アホな人間だろう」と思っていたわけです。そこに純文学の象徴である芥川賞に選ばれたことで、「020 新国立競技場の建設費増額に異論を唱える人への警告」で論じた「認知的不協和」が生じたワケです。関西風にいうと「うそやろぉ〜」という感情になるだろうと想定され、このニュースが大きく報道されたと僕は解釈しています。
ロバート ローゼンタールは「人は常に相手の期待に対し最も敏感に反応する」と論じ、周囲との関わりの中で、相互に期待と関心を持ち合うことが全体の生産性アップにつながると論じています。あなたの職場でピグマリオン効果がどのように活かせるか検討してみてください・・・