035 45歳以降のあなたに訪れる”4つの段階”の心理学的発達

最近の精神・神経科学の研究によって、これまでブラックボックスだった人間の脳の仕組みが次第に解明されてきました。私たちの大脳は、外側の灰白質と内側の白質との2つの部位に分けられます。灰白質は神経細胞の集まりで、コンピュータで言えば電気信号を発信するCPUであり、白質は神経線維で、コンピュータにたとえればチップ同士をつなぎ、電気信号を伝達するネットワークです。また、私たちの脳は、無数のチップが無数のネットワークでつながっていますが、東北大学加齢医学研究所には「脳の構造が年齢とともにどうなっていくのかを実際に人間の脳を10年間追いかけて計測したデータ」があります。

 

これを見ると神経細胞は、男女に有意差はなく、後期高齢期ではなく、20歳を過ぎた頃から直線的に減っていくことがわかります。一方、神経線維はこれとは逆に、年齢とともに少しずつ増えていくことがわかります。そのピークは、だいたい60代から70代の間で、それを過ぎると減っていきますが、80代でも20代と同程度の体積があります。これは、私たちの直観力とか洞察力といった知恵の力に関係がありそうですが、まだ科学的に証明されたわけではありません。一般的な言い方をすると「年の功」。つまり歳をとると、計算したり、記憶したりするスピードは落ちるが、もっと高度な深い知恵の力は、年齢とともに増えていくようです。言い換えると、脳の潜在能力は年齢とともに発達していくというシニア世代には嬉しい研究発表があります。*1

 

1970年代頃までのジェロントロジー(老年学または加齢学)では、「高齢は病気の1つである」という考え方が主流であり、歳を重ねるということは、何かを失っていくこと、衰退することとして捉えられていました。 脳科学の分野においても、脳は新しい神経細胞を生成することはなく、 再成長はしないと考えられていました。しかし、その後の研究によって記憶の形成を司る海馬、熟考や感情の制御を司る大脳皮質において成人となったあとでも新たに細胞が生成されることが分かってきました。*2

 

ジョージ・ワシントン大学加齢健康人文科学研究センター所長 ジーン D コーエン博士は、従来の加齢に関する概念を完全に打ち破り、加齢のプロセスは「衰退の段階」ではなく、心の成長をもたらす「発達の段階」であると論じ、高齢者こそ創造性あふれたライフスタイルをおくるべきだと「エイジレスライフ」という新しい枠組みで提唱しています。このジーン D コーエン博士は、著書「いくつになっても脳は若返る」で、45歳以降に以下の4つの段階の心理学的発達があると提唱しています。

 

40歳前半〜50歳後半「再評価段階」

 

平均寿命に対して折り返し地点に立ったこの時期になって、過ぎ去った時間ではなく、残された時間を意識するようになる。この段階では、ものの見方や考え方がやや俯瞰的になり、その結果、 仕事や人生に対してネガティブとポジティブの両方における価値観の変化が生まれる。ネガティブな面としては「自分はこのまま仕事に追いまくられて過ごしていていいのか」といった感情であり、一方ポジティブ な面としては「もっと自分らしい生き方があるのではないか」という問いかけである。これらは、ある意味表裏一体の感情の表れであり「自分探しの旅」の始まりといえる。

 

50歳後半〜70歳前半「解放段階」

 

50歳代半ばを過ぎると、仕事にせよ子育てにせよ、これまで自分の任務のように感じていたものに対して一定の達成感が生まれ、自分を抑制していた事柄から解放される時期が訪れる。いまさら誰かと競ったり、誰かに自分を誇示したりする必要性を感じなくなり、多少のリスクを許容する余裕が生まれる。それと同時に「今やるしかない」という気持ちが強くなり、自己革新と新たな行動への挑戦 意欲が最も高まる。一定の地位や収入を手に入れた役職者が、早期退職プログラムを利用して独立起業したり、田舎暮らしを始めたりするのは解放段階の行動の代表例といえる。

 

60歳代後半〜80歳代「まとめの段階」

 

これまでの自分の人生を振り返り、総括と恩返しをしたいという気持ちが強くなる。 これまでに自分が蓄積した、富、知恵、経験を多くの人に伝えたり、分け与えたりしたいと考えるようになる。ボランティアや地域活動への参加や自分史や回顧録の執筆は、まとめ段階の特徴的な行動特性といえる。 趣味の日記や個人的な研究成果をブログなどで惜しげもなく公表するのは、社会や人々と何らかの形でつながっていたいという気持ちと、社会や文化の継承者として恩返しをしたいという気持ちが込められていると考えられる。

 

70歳代後半〜最期迄「アンコール段階」

 

これまでの自分の人生のあらゆる経験やテーマが次々に蘇り、これらを集大成しつつ、ゆっくりとしたペースでこれらを満喫したいという気持ちになる。 まったく新しいことに挑戦することよりも、これまでやってきたことを淡々と続ける、あるいは、以前やっていたけれども何らかの理由で中断していたことに再挑戦するといった行動をとる。肉体的には衰えても同じことを同じようにできたり、より上手くできたりすることに喜びを感じ、熟達すること、少しずつ完成に近付けること、何か形として残すことに静かなエネルギーを燃やし続ける。*3

 

いかがですか?それぞれの人の仕事、家族、収入、健康状態といった環境要因などによって、各発達段階を通り過ぎる時期や速度にもバラつきがあるため、年齢はあくまでも目安と考えるべきですが、ご自身やご両親が45 歳以上の方であれば、ご本人の思考や行動がピッタリはまっていませんか?自分自身の固有の思考、固有の行動だと思っていたことが、じつは脳の構造と変化によって齎されていたことに気づくはずです。また、シニア向けのビジネスをされている方、される方は、このジーン D コーエン博士の「4つの段階の心理学的発達」を考慮することが重要です。

 

*1 東北大学特任教授 村田裕之『シニアシフトの衝撃 超高齢社会をビジネスチャンスに変える方法』より引用
*2 fromNow Insight『エイジレスライフにおける消費行動 ‐ 4つのステージと行動特性 ‐』より引用
*3 ジーン D コーエン著『いくつになっても脳は若返る』より一部引用

 

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