039 トップ営業マンやトップ販売員が使うテクニック

15年くらい前に、僕はスニーカー専門店を裏原宿にオープンさせたことがあります。その頃はスニーカーブームで、連日飛ぶようにスニーカーが売れました。しかし、そんなスニーカーブームでも販売が困難な商品がありました。それは「最後の1足」です。順調に売れるモデルでも、最後まで残るサイズは、やはり合う人の少ないサイズです。もちろん、そんなサイズは少量しか仕入れしませんが「最後の1足」は避けられません。その時に僕がとった2つの販売方法についてお話しします。

 

まず一つ目の作戦は「中敷き作戦」です。名前からご想像いただける通り、中敷きを用意しておいて、サイズの合わないお客様に対して、中敷きと共に販売する作戦です。「最後の1足」は、セール対象になってしまうところですが、「中敷き作戦」だと、スニーカーを定価で販売した上に、中敷きも定価で販売できるので、売上も利益も上がります。

 

さらに、そのころは極端に短いソックス(ソックスが見えないタイプ)が、あまり出回っていなく素足でスニーカーを履く若者が多く、そんな素足でスニーカーを履く若者に「中敷きを入れると、素足で履いても中敷きを外して洗えるので、スニーカーが臭くならないよ!」とセールストークしながら売るようになり、周辺の同業者から「裏原で最も中敷きを売るスニーカー屋さん」とウワサされるようになりました。

 

気がついたら、スニーカーと中敷きをセットで販売することが当たり前になり、逆に「最後の1足」は中敷きなしで売るという、笑い話のようなことが起こりました。中敷きはスニーカーほどサイズ展開がないので在庫負担も少なく、売上も利益もUPすることができました。

 

二つ目の作戦は「両足試し履き作戦」です。スニーカーを買いたいと、来店されたお客様のほとんどは、試し履きをされます。普通なら、そこでお客様が「コレの25センチありますか?」と聞かれると「25センチ」の一足を持ってきます。でも、僕は「コレの25センチありますか?」と聞かれると、24.5センチと25.5センチの在庫が多い方と、25センチの二足を持って売場に戻ります。

 

そして、どちらの足が大きいですか?とお聞きして、大きい方の試し履きをしていただきます。この時点では、お客様の頭の中で「買うか or 買わないか」の二択の選択をしています。同時に、サイズがドンピシャなのか一瞬分からないお客様がほとんどです。その瞬間に「一つサイズ違いも履いてみますか?」といって逆の片足で「試し履き」をしていただきます。そして「25センチと25.5センチ(または24.5センチ)」のどちらがピッタリですか?」と聞きます。この時点から、お客様の頭の中では「買うか or 買わないか」ではなく「25センチ or 25.5センチ(または24.5センチ)」の判断になる場合が多いです。もちろん、ここから「もうワンサイズ大きいものが…」とか「もうワンサイズ小きいものが…」と展開する場合もありますが、その場合「買うか or 買わないか」という段階は過ぎています。

 

この「両足試し履き作戦」は、サイズ展開だけではなく、二つのモデルで悩んでいるお客様や、二つのカラーで悩んでいるお客様に対しても、左右違うモデルを試し履きしていただいたり、左右違うカラーを試し履きしていただいたりして「右のモデル(カラー)と左のモデル(カラー)のどちらがお好きですか?」というように展開できます。

 

このように、お客様の選択を二択にもっていくことを、社会心理学の分野で「選択肢限定法」といいます。慶応義塾大学文学部(社会学博士)の榊博文 教授は、『選択肢限定法は、相手に説得されたという意識を生じにくくさせます。与えられた選択肢の中から相手自身が1つを選ぶわけですから、選ぶことを強要されたというより、自分で決定したと思う度合いが高くなるからです。自分自身で決定したことについては、それを実行する可能性が高くなります。』*1 と論じておられます。

 

さらに発展的に考えると、いかなるお客様に対しても二択の質問を繰り返すことで、最終的な結論に導くことができます。このブログを読んでいる方の中には、お客様を誘導しているような、ネガティブなイメージを持つ方もいらっしゃるかも知れませんが「選ぶことを強要されたというより、自分で決定したと思う度合いが高くなる」という榊博文 教授のコメント通り、選択肢限定法の導入により、購入時に喜んでくださるお客様が増えたというのが僕の実感です。あなたのビジネスに「選択肢限定法」がどのように生かせるか考えてみてください。

 

*1:「ノー」という選択肢を与えない「選択肢限定法」ダイアモンドオンライン

 

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