055 技術者,製作者,デザイナーたちが納品時に心得ておくべき”3B2Aの提案法”
前々回のブログ「053 技術者,製作者,デザイナーさんを”なるはや”から解放させる受注時の心得」では、技術者、製作者、デザイナーたちと、クライアントあるいは営業員や販売員の間で、どのようなことに注意しながら受注、発注を行うことが望ましいかを記しました。そして今回は、技術者、製作者、デザイナーたちと、クライアントあるいは営業員や販売員の間で、どのようなことに注意しながら納品を行うことが望ましいかを記します。
前々回のブログに、最近とあるデザイン会社の方から「クライアントの発注から納品までのリードタイムがどんどん短くなって困っています」というご相談を受けました」と記しましたが、そのとあるデザイン会社のデザイナーさんに受注から納品までのプロセスを詳細に伺いしました。
クライアントからの発注については、参考デザインとそれに対する修正点が詳細に指示されます。この段階のポイントは、前々回のブログ「053 技術者,製作者,デザイナーさんを”なるはや”から解放させる受注時の心得」を読んでいただくとして、その後デザイン制作に入り、指示に近いデザインを1点提案され、そこから何度も修正が続き、期限ギリギリまで修正が続き、時間切れのような状態で、やむなく納品するそうです。
これは「とあるデザイン会社」に限ったことではなく、このようなプロセスで制作されているデザイン会社が多いのではないでしょうか?もちろん、クライアントからの納品方法の指示もあるでしょうから、この方法が悪いと言い切れるわけではありませんが、精神神経科学的にこの方法以外にお勧めできる提案方法があります。
このデザイナーさんは、クライアントからの参考デザインとそれに対する修正点を見た段階で、いくつかのプランを考え、その中でベストだと考えたアイデアを一つだけ選択しデザイン制作を進めています。ですから、良し悪しを別にすれば、いくつかのデザインを制作できるでしょう。
そこで、最初の提案時には3つのデザインを制作して提案することをお勧めします。なぜ3つかという理由は、以前のブログ「012 たくさんの選択肢から一つを選んでいただく方法」にも記しましたが、選択回避の法則として知られている「松竹梅理論」という概念があるからです。この松竹梅理論は、ひとは松竹梅の3つのグレードがあると真ん中の竹を選びやすいという理論です。
例えば、お寿司屋さんのメニューに「松・竹・梅」とあれば、最安のグレードの「梅」では安っぽいけど、最高グレードの「松」では贅沢だから「竹」を選ぼうといった人の心理を理論としており、行動経済学でいう「極端性回避」も同様の概念です。
つまり最初の提案時、第1フェーズでは3つのデザインを制作して提案しますが、例えばその3案を「A案・B案・C案」とし、選んで欲しいデザインをB案に配置するということです。また「メラビアンの法則」を応用して考えるとA案が選ばれやすくなるので、一番選ばれないだろうデザインをA案に配置することも有効かも知れません。
このメラビアンの法則とは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の心理学者であるアルバート メラビアン(Albert Mehrabian)が1971年に提唱した概念。人物の第一印象は初めて会った時の3〜5秒で決まり、またその情報のほとんどを「視覚情報」から得ていると言う概念です。
つまり「A案・B案・C案」をひとつのデザインと括って見た場合、最初に見せるデザインの印象が強くなる可能性があるからです。そう考えると、一番選んで欲しくないデザインをA案、次に選んで欲しくないデザインをC案、最後に選んで欲しいデザインをB案に配置することが一番有効かも知れません。
しかし、これは確率論的なお話なので、必ずしもクライアントさんがB案を選ぶとは限りません。しかし、単純に「A案でOKです」とか「C案でOKです」といわれれば、ここで納品になるわけですから手離れが早い案件ということになります。でも、よくあるのが「C案を修正したデザインを見たい」とか「B案とC案を混合したデザインが見たい」という意見です。ここからが第2フェーズです。
第2フェーズでは、以前のブログ「039 トップ営業マンやトップ販売員が使うテクニックで記しました「選択肢限定法」が有効だろうと考えられます。選択肢限定法は、選択限定法やダブルバインドといわれることもありますが、慶応義塾大学文学部(社会学博士)の榊博文 教授は、『選択肢限定法は、相手に説得されたという意識を生じにくくさせます。与えられた選択肢の中から相手自身が一つを選ぶわけですから、選ぶことを強要されたというより、自分で決定したと思う度合いが高くなるからです。自分自身で決定したことについては、それを実行する可能性が高くなります。』*1 と論じておられます。
つまり、「修正デザイン①と修正デザイン②」の2つのデザインを提案すると、決定の可能性が高まるということです。この際は、先ほどの「メラビアンの法則」を応用して修正デザイン①に選んで欲しいデザインを配置することをお勧めします。もちろん、これも確率論的なお話ですので、必ずしもクライアントさんが修正デザイン①を選ぶとは限りませんし、単なる仮説に過ぎないといわれればそれまでですが、理論的に可能性が高いなら試すべきではないでしょうか?
もしも、この二つのフェーズでデザインが決定すれば、今回の「とあるデザイン会社」の場合、受注から納品までのリードタイムは早くなるでしょう。私は、この仮説を「3B2Aの提案法」と称してクライアントさんにお勧めしています。この記事を読んでいただいた皆さまにもぜひお試しいただいて、その結果をお知らせいただけたら幸いです。
*1:「ノー」という選択肢を与えない「選択肢限定法」ダイアモンドオンライン