024 東芝不適切会計問題を犯罪心理的に解釈してみました

東芝は、2008年から2014年の6年間にわたる一連の不適切会計問題を受け、7月21日、田中久雄社長(64)、前社長の佐々木則夫副会長(66)、前々社長の西田厚聡相談役(71)の歴代の社長3人をはじめ、取締役16人の半数が辞任したと発表しました。「利益至上主義」の名の下に合計1562億円という、新国立競技場がもう一つ建ちそうな金額の不適切な会計処理が行われたと断定されたわけですから、そのスケールの大きさに驚きます。

 

犯罪心理学において詐欺行為を繰り返す人たちは、大きく2種類に区別することができるといわれています。第一に「空想虚言症」というタイプです。空想虚言症とは、自分の空想や妄想で思い描いたことが、あたかも本当のことのように錯覚し、やがて嘘を真実だと思い込みます。ですから、詐欺行為で相手から金銭を引き出すときも虚言ではなく、本人なりの真実を以って相手の説得に当たります。普通の演技なら、どこかに嘘のほころびが出てくるものですが、本人は嘘を言っているつもりはないので説得力があり、相手に嘘の内容を真実と思い込ませることに成功します。第二に「演技性パーソナリティ障害」というタイプです。このタイプの人は、完全な「演技」によって相手を騙し、自分をよく見せようとします。つまり、嘘を嘘であるとはっきり認識した上で、役者さながらに熱演し、人を騙します。演技の質が高いほど、相手を完全に騙すことが可能で、そこから金銭などを引き出し、詐欺行為を働きます。自分の演技力を利欲のためだけに使います。これら「空想虚言症」と「演技性パーソナリティ」の明確な違いは、嘘を自覚しているか否かです。前者は、嘘が嘘であることを忘れていて、後者は嘘を前提に行動します。しかし、いずれも相手を巧妙に騙すので、見破ることが難しいのが現実です。恐らく今回の東芝不適切会計問題に関わった歴代の社長3人をはじめ16人の取締役は、前者の「空想虚言症」というタイプなのでしょう。つまり「過ち」を「過ち」と認識していなかったのかも知れません。

 

犯罪心理学を研究領域とされる法政大学 文学部心理学科の島宗理 教授は、人はなぜ同じ過ちを繰り返してしまうのだろうか?「過ち」とされる行動が起るにはそれぞれ原因があると、以下の通り論じておられます。

 

『行動は原因なしには起らない。すべての行動は原因からみれば正当性があるという意味で正しく「過ち」という行動は存在しない。「過ち」と判断しているのは、あくまで解釈なのである。人が同じ過ちを繰り返す原因、というかそのことを嘆く理由は、むしろ「過ちは繰り返さないはず」という単純な思い込みにある。さらに、同じ過ちを繰り返すかどうかは、どれだけ“反省”したかによるという過剰な精神主義に大きな問題がある。すべての行動は原因からみれば正当性があるという意味で正しく、「過ち」という行動は存在しない。「過ち」と判断しているのは、あくまで解釈なのである。行動の後に嫌子(ある行動の直後に提示されることによって、その行動の生起頻度を減らす働きをする刺激)が出現すると、その行動の自発頻度は低下する。これが弱化の法則であり、人だけではなく動物全般に適用できる学習の原理の一つである。弱化の法則からすれば、「過ちは繰り返さないはず」という解釈も間違ってはいない。』

 

東芝不適切会計問題でいうと、6年間不適切会計を「過ち」と解釈することがなかったということになりますが、それは当たり前のお話ですよね?では、今回第三者委員会から「不適切」と指摘されて、歴代の社長3人をはじめ16人の取締役はどうすれば良いのか?人間だけに見られる特有の行動レパートリーである「反省」をするべきであるというのも当たり前の話ですよね?しかし、島宗理 教授は、反省について以下の通り論じておられます。

 

『単に「反省しました」と言わせることを目標にするのではなく、何が間違っていたのか、なぜ間違っていたのか、自分やまわりの人にどんな迷惑がかかったのか、代わりにどんなことをすべきだっのか、などを本人に考えさせるような教え方をすれば、その場の言い逃れ(許してもらうための逃避的な行動)としての反省ではなく、善悪の判断や、因果の理解をうながす教育によって、過ちを繰り返さないための「反省」を教えることもできる。』

 

確かに記者会見では謝罪は聞くが、自分やまわりの人にどんな迷惑がかかったのか、代わりにどんなことをすべきだったのかなどは余り聞いた記憶がありません。この点がないことが再発に繋がるのかも知れませんね?また「023 東京大学グリーンテニスクラブの高原滉さんのご冥福をお祈りします。」で記した通り、東芝不適切会計問題においても、社会心理学の傍観者効果(bystander effect)という概念が作用したとも考えられます。こういう大掛かりな事件を未然に防ぐためにも、事態を放置してしまう重要性に気づき、まずは自分が傍観者ではなく当事者であると認識すること。周りの仲間に声をかけて傍観者であることに気づかせるために仲間と話し合うこと。放置していれば自分が被害者になるリスクがあることを覚えておく。などの意識を備えておくことが必要です。また、もし傍観者効果に陥ったと気づいた時点で、信頼できる人や、複数の人や専門機関に相談し、一人で抱えないことが重要です。そして、事件が発覚した後は、関係者が人にどんな迷惑がかかったのか、代わりにどんなことをすべきだっのかなどを話す機会を作ることが必要なことだと感じました。あなたのビジネスでも大きなトラブルを未然に防げるように、強い意志をもってお仕事に取組んでください。

 

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