026 もう訪れている「個の時代」を社会心理学的に説いてみました

品川、大崎、渋谷、千駄ヶ谷・・・と都心を歩いていると多くの大規模再開発が行われています。いずれも超大型ビルを同時に何本も建てる大規模な工事です。それらの工事はどれも「JV(Joint Venture)」と呼ばれる共同企業体。つまり、複数の異なる企業等が共同で土木建築を行う組織を組んで、一つの工事を施工しています。少し違うかも知れませんが、美容業界においても顧客を持っているヘアスタイリストが委託契約によって一つのヘアサロンで共に働くことも珍しくないそうです。さらに、私たちが熱中する侍ブルーのサッカー日本代表チームや、ナデシコの女子サッカー日本代表チームに集う選手も、普段は別々のチームでライバルとして戦っています。そのライバルたちは、日本代表に選抜されるために凌ぎを削っていますが、一旦同じチームになれば、持てるスキルを100%出してチームに貢献します。

 

また、弊社のお仕事であるプロモーション業界でも、プロデューサーとディレクターとコピーライターとグラフィックデザイナーとスタッフがバラバラの会社に属するクリエーターで構成されたクリエイティブ チームだということもあります。また、クリエイティブを行う会社でも、スタッフはフリーランスの方を使い、社内にプロデューサーだけを置く会社も増えて来ました。つまり、クリエイティブ業界に於いて企業の枠を超えた時代がやって来たということです。

 

2015年7月9日に発刊された、リンクドインの創業者兼現会長のリード・ホフマン(Reid Hoffman)著『ALLIANCE』という書籍があります。最近読んだ書籍の中でも大きな影響を受けた一冊です。リード・ホフマン氏は、雇用主が社員に求める価値観と、社員が雇用主に求める価値観は一致していない状態で「ごまかし」の上に関係が成り立っている。しかし、世の中は変わり、雇用主と社員の関係は “Alliance” つまり、フラットな関係で、情報をシェアし合い、リンクする関係であるべきだ、と論じておられます。

 

このように世の中は「個人の時代=個の時代」に移って来たと感じます。選ばれる人は選ばれ、選ばれない人は選ばれないという実力本位の時代です。昭和の時代なら居酒屋で上司の悪口をいいいながら、仕事は回っていたかも知れませんが、もう上司や所属企業の責任とはいえない時代になったともいえるのではないでしょうか?

 

こういう上司や会社を責める人のことを、社会心理学者である目白大学 社会学部社会情報学科、大学院心理学研究科の渋谷昌三 教授は、著書『他人の心理学』で、問題の原因を自分以外の他人や周囲の状況に求めるのが「外的帰属型」と論じ、このタイプの人は反省しないで、同じ過ちを繰り返しがちであり、本人には、ストレスが溜まりませんが、周りにとってはとんだ迷惑。怒りっぽい、無責任な人だと思われたりします。と論じておられます。

 

また、同僚や部下の成功を妬むタイプの人を見かけることがありますが、自尊感情(自分自身に対する肯定的な評価感情。自分には価値があり、尊重されるべき人間だと思う感情)が低いほどその傾向が強くなる、劣等感が刺激された結果の反応だ。また、上司や同僚に対して誹謗中傷する行為は、相手の価値を引き下げ、同じ立場に立とうとする「引き下げの心理」にある。人を批判するのはコンプレックスがそういった態度を取らせている、と論じておられます。このような人が「個人の時代」で選ばれる人材であるか否かは明らかではないでしょうか?

 

少子高齢化が進み企業は良い人材の確保に努力していますが、クリエイティブな仕事に就く人にとっては「企業に選ばれること」と「タスクに選ばれること」の意味の違いを理解する必要がある時代なのかも知れません。一方の経営者は、自社に都合が良い人材を選ぶ時代ではなく、タスクに都合が良い人材を選ぶ時代。そして、社員・契約社員・アルバイト・パート・外注などの関係性に拘る必要はなくなったのかも知れません。リード・ホフマン氏的にいえば、タスクに都合が良い人材とフラットな関係で、情報をシェアし合い、リンクする関係であるべきだといえます。

 

居酒屋で上司の悪口をいいいながら企業にしがみついていた時代にサヨナラし、ビジネスのタスク毎に、最適なチームを構成できるリーダーと、タスクのソリューションとなるスキルを提供できるクリエーターだけが求められる新しい時代の開幕に歓声を上げるべきかも知れません。あなたのお仕事の業界での「新しい時代の開幕」について考えてみてください・・・

 

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