031 御巣鷹山慰霊登山で改めて考えた機長の心理学

JAL123便は、1985年8月12日、乗客509名、乗員15名が搭乗して、18時12分大阪(伊丹)空港に向け羽田空港を離陸しました。巡航高度24,000フィート(7,315メートル)に到達する直前、伊豆半島東岸に差しかかる18時24分35秒、機体後部圧力隔壁が破壊して、客室内与圧空気が機体尾部に噴出し、APU(補助動力装置)及び機体後部を脱落させ、垂直尾翼の相当部分を破壊し、それに伴い動翼を動かす油圧装置が全て不作動となりました。以後、同機は激しい上下・蛇行運動を繰り返しながら約32分間飛行を続けましたが、18時56分頃群馬県多野郡上野村の山中(標高1,565メートル、御巣鷹山南方の尾根)に墜落しました。(運輸省航空事故調査報告書要約)

 

その事故から今年は丁度30年が経ちました。毎年この8月12日を迎える度に、30回その事故のことをニュースで聞いてきました。その度に心の中で手を合わせ、520名の亡くなられた方のご冥福をお祈りして来ましたが、いつかは現地で手を合わせてキチンとご冥福をお祈りしたいという思いがあり、30周年の今年、御巣鷹山慰霊登山に先日行きました。

 

ところで、JAL123便の事故の原因とは違いますが、社会心理学者である目白大学 社会学部社会情報学科、大学院心理学研究科の渋谷昌三 教授は、著書『自分がわかる心理学』で、機長の心理学について以下の通り書かれています。

 

『フライトの途中で、悪天候のために視界がまったく利かなくなりました。このとき、実験計画に従って、機長は事故につながる間違った指示を出します。そうしたところ「全フライトの25%で墜落事故が起こってしまう」という結果が出ました。上司である機長の指示に疑いをもって、異論を唱える乗員がいなかったからです。乗員は「機長はスペシャリストだから、間違った指示を出すはずがない」と思い込んでいたのです。「機長が犯した明らかなミスを他の乗員が正そうとしなかった」ために起こる墜落事故を「機長依存症候群」と呼ぶことがあります。

 

(中略)

 

人がよく考えたうえで、的確な判断ができるのは、「自分の力で何とか解決したい」との強い欲求があるときと、「自分ならなんとかできる」という自信を高い能力があるときに限られていると考えられます。とくに、次のような条件のとき、機長依存症候群(「上司依存症候群」と言い換えることもできる)が生じやすいことがわかっています。

 

1 問題が複雑すぎる。
2 時間がない。
3 やらなくてはならないことが多すぎる。
4 感情的になっている。
5 心理的な疲労感が強い。

 

こうした状況のとき、多くの人は、専門家や経験豊富なベテラン上司の言いなりになりやすいというわけです。それでは、いわゆる「上司依存症候群」を防ぐにはどうしたらいいでしょうか。

 

まず第一に、「言われたとおりにすればいいんだ」と権威にものを言わせる上司の態度は最小限に抑えなくてはならないでしょう。第二に、有能な部下に「考えるゆとりを与える」ことが必要でしょう。第三に部下が、自分の問題として解決しようとする意欲と、自分にも解決することができるという自信がもてるように、日頃から指導しなくてはならないでしょう。』

 

長い文章になりましたが、機長の心理学は皆さんのお仕事の参考にもなったのではないでしょうか?

 

ただし、JAL123便の事故原因は、同機が事故の7年前(1978年)大阪空港着陸時に起こした尾部接触事故の修理に際し、ボーイング社により行なわれた後部圧力隔壁の上下接続作業の不具合にあり、7年間の飛行でその部分に多数の微小疲労亀裂が発生、次第に伸長し、この飛行で隔壁前後の差圧が大きくなった時点で亀裂同士が繋がり一気に破壊が進み、2ないし3平方メートルの開口部ができたものと推定されています(運輸省航空事故調査報告書要約)ので、機長依存症候群が影響していることはないでしょう。

 

勿論、このJAL123便の事故は航空機事故減少に大きく貢献し、最近の情報によると、航空アナリストの杉浦一機氏が「国際航空運送協会がジェット旅客機が事故を起こす確率を発表しており、2013年の数字は100万便につき0.41回でした。仮に、週1回1往復(2回搭乗)し、年104回乗る人でも、事故に遭う確率は3900年に1回。途方もなく低い確率だ」と語っています。

 

また、ヨーク大学で法学の学位と歴史学の修士号を取得し、オンタリオで政策アドバイザーを務めた後、『オタワ・シチズン』紙の記者となったダン ガードナー(Dan Gardner)氏は、著書『リスクにあなたは騙される -「恐怖」を操る論理 』の中で「9.11同時テロのあと、米国では人々が飛行機の利用を避けて車を選ぶようになり、交通事故死が急増した。移動手段を飛行機から車に替えたことで増えた死者数は1,595人と推定されている。」とあるので、航空機は事故率の低い公共交通機関であるといえます。これも、JAL123便の事故で亡くなられた520名の尊い命が齎した未来への遺産ですね・・・合掌。

 

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