037 SNSでイデオロギーを語ることはタブーではないですか?

米国在住の65歳以上のネットユーザー数は2,000万人以上で、その49%はFacebookアカウントを持っていると、アメリカのマーケティング&戦略コンサルであるフォレスター リサーチ社が発表しました。さらに日本でも、ソニー生命が50~79歳の男女を対象に実施した『シニアの生活意識調査』によると、2013年9月時点でSNSを利用している割合は38.4%で、その約4割にSNSが浸透している結果となりました。しかも、70代でも3割以上が利用していて、利用しているSNSは、Facebook(26.0%)が最も人気が高く、次いでTwitter(14.2%)、LINE(11.3%)、mixi(8.0%)と続くそうです。さらに、今後のSNS利用意向は、83.6%(SNS利用者に限る)と8割を超え、非利用者は8.0%でした。また「ソーシャルメディアのネット上のつながりは有効」とする人はの割合は64.6%(SNS利用者に限る)と、約6割以上だったそうです。この調査の実施時期は、2013年9月4日~8日(サンプル数は50~79歳の男女1,000名)だそうなので、2年後の現在に至ってはSNSのシニア化はさらに進んでいるでしょう。*1

 

ところで、SNSが流行りはじめた頃に「SNSでイデオロギーを語ると炎上するので、やめておいた方が良い」と、インターネット メディアで読んだことがあります。しかし、最近のFacebookやTwitterを見ているとイデオロギー的な意見ばかりが目につきます。その理由のひとつにSNSのシニア化があるのではないでしょうか?シニア達が発するFacebookやTwitterのイデオロギー的発言を見ていて感じることは、強い意志に基づいて書いていると信じているユーザー自身が、無意識領域における意思決定により発言していることが多いことに気付かされます。

 

ご存知の通り、Facebookでは「お友達」、Twitterでは「フォロワー」を本人の好みで選択するので、同じイデオロギーをもつ人が多くなるのは当然です。同じイデオロギーをもつ人の投稿した記事が自分のタイムラインに並びます。つまり完全に偏ったメディアが完成されるわけです。このとき「5つの心理バイアス」が無意識領域の意思決定に働いています。

 

一つ目に「確証バイアス(Confirmation bias)」という心理バイアスが生じます。この確証バイアスとは、仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向のことをいいます。植物学と遺伝学の研究者であったグレゴール・ヨハン・メンデル(Gregor Johann Mendel)博士が、1865年に報告した「優性の法則、分離の法則、独立の法則」からなる「メンデルの法則」は、理論値に近いデータを作為的な選別で行なったと推測されたことから、確証バイアスが語られ始めました。

 

二つ目に「観察者バイアス(Observer bias)」という心理バイアスも生じます。これは、観察者が見出すことを期待している行動を強調しすぎて、それ以外の行動に気づかないという測定における誤差です。いい換えれば、人は、他人や物を評価する場合、自分が期待する行動ばかりに目がいき、それ以外の行動に注意が向かなくなります。例えば人は、他人の悪い面ばかり見る傾向があり、その反面、良い面には目がいかないということです。

 

三つ目に「総意誤認効果(False consensus effect)」という心理バイアスが生じます。人は他の人々も自分と同じように考えていると見なし、人々は自分の意見・信念・好みが実際よりも一般大衆と同じだと思い込む傾向があるというもので、このグループで議論すると、グループの総意はもっと大きな集団での一般的考え方と同じだと考え、グループのメンバーが外部の人間とそのことについて議論する機会がない場合、そのように信じ込む傾向が強くなります。さらに、そのような合意が存在しない証拠を突きつけられたとき、人は合意しない人が何か間違っている、勘違いしている、よく知らないで意見を言っている、と見なすことが多い*2 という心理バイアスです。

 

四つ目に、以前にこのブログにも登場した「認知的不協和理論( cognitive dissonance)」です。これは、矛盾する認知を同時に抱えた状態、またそのときに覚える不快感を表す社会心理学理論です。上記の確証バイアス、観察者バイアス、総意誤認効果によって無意識領域で確立された意志に対して矛盾した意見を不快に感じ拒絶をします。

 

五つ目に「内集団バイアス(Ingroup bias)」という心理バイアスがトドメです。自分が所属している集団のメンバーは、外集団のメンバーに比べ、実際には優劣の差がないにもかかわらず、人格や能力が優れていると評価することをいいます。この内集団バイアスは原因帰属にも現れ、メンバーの望ましい行動は内的原因に帰属されやすく、望ましくない行動は外的原因に帰属されやすい傾向にあります。いい換えれば、人は、自分が所属する集団を他の集団よりも高く評価する傾向があり、評価の高い集団に属する人を高く評価します。さらに、自分を高く評価してほしいという欲求があるため、自分と同一視する集団の評価を高めること(「いいね!」の数など)で、自分の評価が高くなったと思い込むために起こります。また、自分が所属する集団には好意的な態度をとり、それ以外の集団には差別的な態度をとる傾向もあります。

 

この5つの心理バイアスが無意識領域の意思決定に働いてしまいイデオロギー的な書込みを投稿してしまうことになります。2020年東京五輪の主会場予算がどうの、安全保障関連法案がどうの、川内原発再稼働がどうの、などといったシニアのイデオロギー的投稿に若者達は嫌気がさし、SNSを離れて行ったことに気づかず、無意識領域で決定された意志を、意識領域の意志として語ることの方が、その方たちがいう”支持しない内閣”より、よほど危険なことにそろそろ気づくべきではないでしょうか?

 

*1 Travel voice『シニアの4割がSNSを利用、Facebookが一番人気-シニアの生活意識調査
*2 Ross L., Greene D. & House, P. (1977)『The false consensus effect: An egocentric bias in social perception and attribution processes.』 Journal of Experimental Social Psychology 13.

 

37