041 起業家を創出するために私たちにできることは何か?(4回連続 ②)

中小企業庁が毎年報告をする中小企業白書の最新版『中小企業白書(2014年版)』には、「起業は産業の新陳代謝を促進し、我が国経済を活性化する役割を持つ」と冒頭に記され、 現在の日本における起業の実態について詳細に報告されています。

 

それによると、起業を希望する者である起業希望者は、僕が起業をした1997年以降、減少傾向にあり、2007年及び2012年に激減しています。 こうした起業希望者の減少は「起業大国」を目指す日本にとって看過しがたい事実であり、早急な対策が求められると論じています。その起業希望者およびアントレプレナーの推移を年齢別に見ると、60 歳以上の割合は年々高まる一方で、若者の起業希望者及びアントレプレナーの割合が減少しているそうです。実際に起業したアントレプレナーの年代別構成を見ると、60歳以上が32.4%で、50歳代と合計すると、46,7%とアントレプレナーの約半数に至ります。一方の29歳以下のアントレプレナーは11.9%と少ないのが現状です。その理由について、シニア層は若者に比べて自己資金が豊富であり、社会経験を蓄積しているとともに、退職後も何らかの形で働き続けたいと希望する者が多く、その一つの選択肢として、 起業を選ぶ方が存在するため、シニア層は起業の動機が明確であり、かつ、その意欲も高いと推察されると論じています。*1

 

また、起業分野について、60歳以上のアントレプレナーについては、それまでの職歴を活かした経営コンサルタントや営業代行等の「サービス業」の割合が高くなっている一方で、若者は「生活関連サービス業、娯楽業」等のサービス業や、 ICT ベンチャーに代表される「情報通信業」の割合も高く、新しい流行やトレンド、進展著しい ICT への対応力が高いことが特徴といえるそうです。

 

つまり、60歳以上で経営コンサルタントや営業代行を事業ドメインとしてローンチする方が多く、若者は、生活関連サービス業や ICT を事業ドメインとして起業する方が多いということになりますが、それらのお仕事で起業を果たされたアントレプレナーの7割強を占める自営業主の個人所得の推移を見ると、その個人所得は年々減少し、2012年では100万円未満が3割超、200 万円未満が5割超を占め、300 万円未満になると実に7割を占めることが分かりました。この自営業主の所得が年々減少傾向にあることが、起業して自営業主になりたいと考える起業希望者の数を減少させていることの一因かも知れません。そして、自営業者を選好する者の割合やアントレプレナー精神が低いことが、我が国の開業率が欧米諸国 の半分または、それ以下であると報告されています。

 

世界銀行が行なった起業環境に関する国際比較によれば、開業に要する手続き、時間、コストを総合的に評価した場合、日本の起業環境は総合順位で120 位であり、OECD34 か国中では31位と極めて低位に位置しているそうです。この順位は、起業環境といっても、会社設立に必要な手続きや開業コストを比較しているため、個人事業者の起業に対しては必ずしも当てはまらないものの、「起業大国」を目指す日本にとって看過しがたい結果であり、諸外国と比較したところ、日本はアントレプレナー精神及び起業環境の両面において、様々な課題が存在しているようです。

 

この現状を踏まえて、開業率の倍増を実現するためには、フルタイムで働く被雇用者の起業を促進するだけでは不可能であり、様々な事情でフルタイムでは働いていない方や非正規雇用の方に対しても焦点を当てた起業を促進すべきで、具体的には、女性や若者、シニアにフォーカスし、彼らのリスクを最小限に抑えた「小さな起業」を促進することが「起業大国」に向けた道であると考えられると中小企業庁は論じています。

 

では、アントレプレナーは起業時にどのような不安を感じていたのだろうか?全体として「収入の減少・生活の不安定化」、「事業の成否」、「社会保障(医療保険・年金等)」が高い割合を占め、若者は、全ての項目について不安を感じる割合が高く、シニアは不安を感じる割合が少ない。これは、若者ほど社会経験が少なく、また、その後の人生も長いことから、収入や社会保障、失敗した場合のリスク等に不安を感じる方が多いということが推察されます。

 

これらの状況を踏まえると、リスクが高い起業には踏み出せない現状が推察されます。より多くの方が起業に踏み出せるように、起業に伴うリスクを低減する必要があることはいうまでもなく「ハイリスクハイリターンな起業」ばかりではなく、小さく事業を始めて、失敗しても損害を最小限にとどめるような「小さな起業」も立派な起業であるというメッセージを打ち出していく必要があるというのが中小企業庁の見解です。「ハイリスクハイリターンな起業」ではなく「小さな起業」を促進するためには、何が必要なのか?現在の日本の状況を踏まえて、私たちにできることはないのか?考えてみました。・・・「起業家を創出するために私たちにできることは何か?(4回連続 ③)」につづく。

 

*1 中小企業庁『中小企業白書(2014年版)
*2 中小企業庁委託「日本の起業環境及び潜在的起業家に関する調査」(2013年12 月、三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング(株))参照

 

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