050 自責と他責と自利と他利とマーケティング

交流分析(Transactional Analysis)の提唱者であった、カナダ・ケベック州出身の精神科医&心理学者であるエリック バーン(Eric Berne)博士が残した言葉に「You can not change the other people and the past. But, You can change yourself and the future.(他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる)」という名言がある。また、オーストリア出身の精神科医、心理学者、社会理論家であるアルフレッド アドラー(Alfred Adler)が創始し、後継者たちが発展させてきた心理学の体系である individual psychology(個人心理学)でも、人間が抱える問題について、全体論から人間の内部に矛盾や葛藤、対立を認めないことから、人間が抱える問題は、すべて対人関係上の問題であると、エリック バーン博士の言葉と極めて近い概念で語られている。さらに、最近では、ハーバード・ビジネス・スクール出身で、7つの習慣の著者 スティーブン リチャーズ コヴィー(Stephen Richards Covey)博士もまた「問題が自分の外にあると思うなら、 その考えこそが問題だ」と論じている。

 

これらの考え方に通じる概念として日本語では「自責と他責」という言葉がある。東京大学法学部卒業後、コロンビア大学MBAおよびLLMを取得し、ハーバード・ビジネススクールAMP修了後、ブルッキングス研究所 客員研究員になられた松本洋 博士は、著書『自責社員と他責社員』のなかで以下の通り論じておられる。

 

『なぜ、あなたはうまくいっていないことにきづいているのに、改善しようとしないのですか?」と。おそらく、それに対しては次のような答えが返ってくるはずです。「それは上司の仕事であって、私の仕事ではない」ここに見られるのは典型的な他責の思考です。全体を見るのが上司の仕事であるのは確かですが、少なくとも上司に対して改善を提案することはできるはずです。提案して上司が動かなかったとしても、他の人に相談するなり、みんなを集めて話し合うなり、いくらでもできることはあるはずです。』

 

これは皆さんの会社でもよくある光景ではないか。この「自責と他責」という言葉を端的に表現すると、自責=起きた結果をすべて自分の責任と受けとめる。他責=起きた結果をすべて他人の責任と受けとめる。ということだろう。

 

ところで、自責と他責という言葉を似た言葉に「自利と他利」という言葉がある。確かに音は似ているが、意味は全く違う。比叡山を開いた最澄伝教大師の言葉「自利とは利他をいふ」が語源で、利他を実践すればいつかは巡り巡って自分の利益になるというような考え方ではなく「利他の実践がそのまま自分の幸せなのだ」という意味の言葉だそうだ。

 

この言葉の意味を知らなかった時点では、漫画『ドラえもん』に登場する主要キャラクターであるジャイアンの有名なセリフ「お前のモノは俺のモノ、俺のモノは俺のモノ!」のような利己的な言葉だと解釈していた。また同様に解釈して「剛田主義」(作中のジャイアンの名前が剛田武であるため)または「ジャイアニズム(Gianism)」という言葉で語らえることもあるそうだ。ところが意外にも、この「お前のモノは・・・」という言葉は、のび太のランドセルを探すシーンで「仲間のモノがなくなって探すときは、俺のモノだと思って探すのは当然」といういう、自利他利と近い意味の言葉であったことを知り驚いた。話が脱線したが、仕事の場面で、良い結果が得られら後に「あの仕事は僕がやりました」或いは「あのアイデアは私の発案です」という人があなたの職場にもいないだろうか?この「利益の根源は自己にあり」という思考もまた、自責と他責の延長線上にあると考えられるだろう。

 

ところで、このブログを毎回読んでいただいている読者のお一人から「作り手(技術者、製作者、デザイナー等)視点(作りてが考えるべきマーケティングとか)も書いてください。」というリクエストを貰ったことがある。この「作りてが考えるべきマーケティング」には「自責と他責」の概念が重要ではないか?技術者、製作者、デザイナーたちは直接ユーザーに接する機会が少ない。故にマーケティングの基本である顧客視点という意味で、問題点を川下のせいにしないということが大切だろう。

 

50