064 速報 “solidarite” から読み解く世界規模のマーケティング

皆さんご存知の通り、11月14日早朝(日本時間)に、パリのバタクラン劇場やその周辺で、120人以上もの死者をだすテロ事件が起きました。その事件のメディア発表があった数時間後に、ワシントン州シアトルに本拠を構えるECサイト & Webサービス会社Amazon.com, Inc.(アマゾン ドット コム)のトップバナーが”solidarite”の文字とフランス国旗(添付の画像)に変更されました。

 

僕はフランス語が判らないので”solidarite”を検索したところ「連携、団結」などの意味を持つことが判りましたが、想いとしては日本語でいう「絆」と言う意味なんだろうと感じました。このAmazon.com, Inc.の対応に対しては、賛否両論がWEB上で繰り広げられていますが、僕が皆さんにお伝えしたいことは、その対応の内容ではなく、プロセスについて再考していただきたいと言うことです。このトップバナーを変更するまでの作業フローは最低でもこれだけあります。

 

▽トップバナーを変更すると決定する。
▽デザインは”solidarite”の文字とフランス国旗に決定する。
▽使用する画像の著作権の使用許諾契約を締結する。
▽使用する”solidarite”の商標権の有無をサービスを提供する全ての国で確認し、既に商標権者がいれば使用許諾契約を締結する。
▽全ての準備が完了した時点で、変更の時期は即刻と決定する。

 

当然ですが、このテロ事件は事前に予測されていたワケではありません。つまり、突発に起きた事態に対してAmazon.com, Inc.は、数時間で対応したことになります。Amazon.com, Inc.は、共同創業者兼会長兼CEO兼社長 ジェフリー プレストン ベゾス(Jeffrey Preston Bezos)率いる従業員数109,800人(2013年の第3四半期時点)の巨大企業です。従業員数の規模だと、Microsoft社の99,000人、Apple社の80,300人、Google社の46,421人より大規模な組織です。そんな組織で、なぜ数時間で「トップバナーを変更する」と言う意思決定とデザインワークが可能だったのでしょうか?

 

これは、僕の推測に過ぎませんが「世界のどこかで、テロ事件や災害などの多数の被害者を伴う事件・事故・災害が発生した場合、即刻トップバナーを国旗と「絆と言う意味の現地母国語」に変更する」と言う社内オペレーションが決定していて、事件の前から今回のトップバナーのクリエイティブは完成していたのではないでしょうか?そう考えないことには、上記のトップバナーを変更するまでの作業フローを数時間で完結することは物理的に不可能ではないでしょうか?しかも、作業した時間帯は金曜日の深夜です。

 

つまり「Amazon.com, Inc.は、世界で起こるあらゆる事態に対して、事前に対応策を講じているのではないか?」と、僕は推測しています。そして、今回と同様のことを感じたことが過去にもあります。それは、2011年10月5日のことです。

 

その日は、Apple(アップル)の創業者であり、当時のCEO であったスティーブン・ポール・“スティーブ”・ジョブズ(Steven Paul “Steve” Jobs)が、膵癌に伴う呼吸停止で亡くなった日です。記憶している方も多いと思いますが、「ジョブス死亡」のニュースが世界を駆け巡った数時間後に、AppleのWEB SITEのTOP PAGEがジョブスCEOのモノクロの追悼画像に変更されました。

 

言うまでもなく「ジョブス死亡」のニュースは、当日の世界のトップニュースになり、TwitterやFacebookなどのSNSを通して世界中の人々が、このニュースと共に「AppleのWEB SITEのTOP PAGEがジョブスCEOのモノクロの追悼画像に変更されている」と発信しました。そして、その日、世界で最もアクセス数が多かったのがAppleのWEB SITEでした。

 

しかも、その「ジョブスCEOのモノクロの追悼画像」をクリックすると、同日に発表した”iPhone 4S”が現れるデザインになっていました。さらに「 4S= For Steve」の意味らしいと言うもっともらしいウワサも広がり、ジョブスの遺作としてロイヤリティーを高めました。

 

この時のTOP PAGEの変更についても、今回のAmazon.com, Inc.のトップバナー変更ほどではないにせよ、幾つかの作業フローを数時間で完結する必要があったはずです。少なくとも亡くなった方の肖像権は遺族の同意が必要ですから、もしかするとTOP PAGEの変更については、生前のジョブスCEO本人の指示だったのかも知れません。そうだとしたら、自分の死を最も効果的にマーケティングに利用したことになります。

 

この件で Amazon.com, Inc.が、広告費を使うことなくどれくらい告知できたか「solidarite」という単語をWEB検索していただけると判ります。AppleにせよAmazon.com, Inc.にせよ、企業や社会に対してネガティブな出来事でさえ、最大限にマーケティングに利用するという思考から学ぶことがあると感じます。

 

テロ、事故、パンデミック、地震、噴火、台風、竜巻、大雨、猛暑、大雪・・・など、皆さんの会社でも、起こりうる事態に、どのように備えるべきかを常にお考えになって、備えることをお勧めします。

 

064 速報「solidarite」から読み解く世界規模のマーケティング