066 精神・神経科学的経営戦略”ニューロ マネジメント”を考える。

お気づきの方も多いと思いますが、このブログのタイトルを、営業さんや販売さんのお仕事にも役立つブログ「ニューロ マーケティングってなんだろう」から「精神・神経科学的経営戦略”ニューロ マネジメント”を考える。」に変更して、しばらくが経ちました。もともと「ニューロ マーケティング」と表記していましたが、マーケティングより更に広い分野であるマネジメントの方が、このブログの内容に適していると考えました。

 

このニューロ マネージメント (neuromanagement)という概念についての定義は諸説ありますが、明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 吉村孝司 教授の論文『ニューロ マネジメント(neuromanagement)研究試論』によると、以下の通りです。

 

経営(management)は、いずれにせよ人間の行動の集合体であるとともに、 その結晶体であり、個々の人間の認知および意思決定の結果に他ならず 、とりわけ人間の脳における一連の神経的現象がこうした結果をもたらすのである。そして人間としての共通性が経営という行動に一定の共通性(もしくはパターン)をもたらすことにより、経営現象の理論化が図られてきたのである。本稿では経営における人間を対象とする従来の研究アプローチをさらに深化させ、人間の脳科学への接近を図ることにより、より現実的かつ客観的アプローチとしての「ニューロマネジメント(neuromanagement)」 としての新しい視点を提起することを目的としている。*1

 

つまり、ニューロ マネジメント(neuromanagement)は、「新しい視点」として解釈して良さそうですから、「048 ブルーオーシャン戦略はもう古い、これからはホワイトオーシャン戦略だ!」で書いた「ホワイト オーシャン」なのかも知れません。イノベーションが「三度のメシより大好物」の僕にとっては、とても魅力的な分野であることは間違いないと言うわけで、このタイトルに変更したわけです。

 

さて、話は変わりますが、僕が精神・神経科学に興味を持つきっかけになったのが、東京大学大学院 医学系研究科 脳神経医学専攻出身で、東日本国際大学特任教授、横浜市立大学客員准教授である中野信子 教授の論文でした。そして先日、その中野信子 教授のご講演を聴講する機会をいただき、新たにいくつかの仮説が生まれたので、書かせていただきます。

 

中野信子 教授は、視床下部の室傍核と視索上核の神経分泌細胞で合成され下垂体後葉から分泌されるホルモンであるオキシトシン(Oxytocin)の研究を続けられています。このオキシトシンは、中枢神経での神経伝達物質としての作用があり、良好な対人関係が築かれているときに分泌され、闘争欲や遁走欲、恐怖心を減少させる分泌ホルモンだと言われています。

 

わかりやすく言うと、オキシトシンが脳内で分泌されると「好き」と言う状態になるわけです。ビジネスにおいてもクライアントや上司、あるいは部下から「好き」と思われると、仕事の質に対しても期待できるわけですから、中野信子 教授のオキシトシンに対する研究は、マネジメントに対しても有効であろうと考えられます。

 

例えば、中野信子 教授の報告によると、焼肉店に行き、焼く前の赤い肉を見ると人間の脳内ではセロトニン(感情的な情報をコントロールし精神を安定させる働きがある必須アミノ酸)や、トリプトファン(精神・神経を落ち着かせるなど、ヒトの健康増進に役立つとされている必須アミノ酸)が生成されるそうです。

 

さらに、焼いた肉を食べると、脳内でオキシトシンが生成されるそうです。これは、魚介類や野菜にはない作用だそうです。つまり、上司や部下と食事に行く際は、魚より肉の方が、自分に好感を持って貰える可能性が高くなるという仮説が立てれるわけですし、クライアントとの食事の際は、なおさら意識をする必要がありそうです。

 

しかし、女性は男性に対して、2/3しかセロトニンを生成することができないので、プライベートで女性に好感を持って貰いたいと思っても、焼肉の効果は2/3になってしまうと考えておいた方が良いようです。

 

その他にも、ワシントン大学医学部 ロバート クロニンジャー博士の報告によると、食に拘りの強いグルメな方は、新奇探索傾向が強いそうです。つまり、新奇探索傾向の強い人は新しい刺激や環境を好むので、異なる考え方や感性、環境に囲まれやすいので、競合他社に乗り換えられる可能性が高いという仮説も立ちます。

 

食に関すること以外でも、相手の脳内でオキシトシンを生成させるためには、空間を共有する、つまり一緒にいる時間を長くすることと、スキンシップを取ることが有効だそうです。ですから、長い商談後の握手などは効果的だと言えます。

 

また、ポーラ・オルビスグループのポーラ化成工業株式会社の研究チームの報告によると、普段、ファーストネーム(名前)で呼ばれていない女性に対して、初対面の人間がファーストネームで呼びかけたところ、愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシンが増加することを見出しました。また、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールが減少することも見出しました。これらの研究結果により、ファーストネームの呼びかけといった日常の何気ない行為が、ホルモンの状態を良好な方向へ導く手段の一つである可能性が示唆されました。*2 とあります。

 

つまり、クライアントの担当者が女性だった場合、ファーストネームで呼びかけることによって、好感を持って貰いやすくなるとという仮説も立ちます。商談後の握手や相手をファーストネームで呼ぶなどの行為は、自分の経験から効果があると体感していましたが、脳内分泌物質の生成のメカニズムとの相関が明らかになったことで、納得をすることができました。

 

このように、ドーパミンやセロトニン、オキシトシンなどの脳内分泌物質の生成がマネジメントに大きな影響があると言えます。僕はこのような精神・神経科学とマネジメントの関係を”ニューロ マネジメント”の定義として今後も研究を続けて行きたいと考えています。

 

*1:吉村孝司(2007)『ニューロ マネジメント(neuromanagement)研究試論』より引用
*2:ポーラ化成工業株式会社(2014)『ファーストネームでの呼びかけがオキシトシンホルモンに影響を及ぼす事を発見』より引用

 

065 精神・神経科学的経営戦略"ニューロ マネジメント"を考える。