072 大手ファッション通販サイトで購入して見えた消費者心理

12月の第一週末頃から冬のセールが始まることは近年恒例になってきました。「本格的な冬はこれから」という時期にセールをすると言うのは、メーカー側から見れば、如何なものかと感じますが、ユーザーとしては嬉しいお話です。

 

大手ファッション通販サイトでもセールが始まり、先日、スリーピーススーツを購入しました。そんな場面で気になるのがサイズです。そのECサイトでは、着丈・肩幅・身幅・そで丈・ウエスト・股上・股下・ヒップの表記があり、自分のサイズに適合していたので購入しました。

 

早々翌日には商品が届き、試着をしたところ、ジレ(ベスト)が予想以上に窮屈でした。不思議に思い採寸したところ、表示より身幅が10cmも小さいことが判明しました。仕方なく返品を申し出たところ「「ご指摘箇所の詳細(サイズ誤差があった部位、お届け商品のサイズスペックなど)をお教えいただけますでしょうか」との返答が来ました。さらに「サイズについて」を確認してくださいとの返答が来ましたが、指定された場所にリンクボタンもなく、仕方なく届いた商品にスケールを当てた画像を送信して、返品の承認をいただくことができましたが、返品までの過程は決して容易とは言えませんでした。

 

世界最大のTV通販であるアメリカのQVCや、Amazonの姉妹サイトで靴とバッグを中心としたネットショップ”javari(ジャバリ)”は、買ってから選べる返品無料のネットショップとして実績を伸ばして来ましたし、その流れは、日本国内にも広がり、靴とファッションの通販サイト”ロコンド”のサイトには「じたくで試着、きがるに返品。しかも即日出荷」と目立つように表記したうえに、大手ファッション通販サイトにはない”電話番号やメールアドレス”の表記もあります。

 

応用経済学を専門とする慶應義塾大学 商学部の中島隆信 教授は「返せると聞けば、買い手は安心して商品に手を伸ばせます。企業も売り上げが伸びます」と日経プラスワン2011年6月18日付記事『「不満なら返品OK」なぜ増える? 』 内で論じておられます。*1

 

これは行動経済学的に言うと”保有効果”と言う心理的作用が働いています。保有効果とは、自分が所有するものに高い価値を感じ、手放すことに抵抗を感じさせる効果のことです。ひとは、新しいものを手にした時に得られるメリットより、所有するものを失うことによるデメリットを多く見積もってしまうという心理効果です。

 

デューク大学先進後知恵研究センター(The Center for Advanced Hindsight)の創設者であるのダン アリエリー(Dan Ariely)教授は、バスケットボール全米選手権のプレミアムチケットを、抽選により手に入れられると学生に告知しました。そして、このチケットを手に入れた学生はどれほど高くチケットの価値を見積もるのか? という調査をするため、手に入れた学生に「いくらならチケットを譲ってもいいか?」、手に入らなかった学生に「いくらなら買ってもいいか?」と100人以上に電話をかけて調査しました。

 

するとチケットがはずれた学生は1枚約170ドルを払ってもいいという意志を見せたそうです。その金額の根拠は、スポーツバーに行って飲食をする価格と比較して調整、算出したものでした。一方、チケットをもつ学生は1枚に約2,400ドルを要求してきました。その根拠は、この試合は生涯忘れられない思い出になるだろうと高額に設定してきたようです。実にその差は14倍にもなりました。

 

この実験結果からも保有効果がいかに有効かが判ります。また、また保有効果と類似した心理的効果として、”損失回避性”という概念もあります。この”損失回避性”とは、利益から得られる満足より同額の損失から得られる苦痛の方が大きいことから、損失を利益より大きく評価する心理状態を言います。今回の僕のようにサイズが合わないと言うケースは別として、想像していたカラーと少し違うといった場合は「まぁこれでも良いか!」と思ってしまうわけです。

 

ECサイトでの販売などインターネットを利用したビジネスをされている方、特に消費財や食品・飲料などを商品とされている方には、ぜひ「返品OK!」の販売方法をお試しいただきたいです。当然、残念な返品も増えると予想されますが、それ以上の効果は期待できますし、一定時期において返品率や返品金額を算出し、その結果を販売金額に加算することで、大きな損失は防げるでしょう。

 

*1:日経プラスワン2011年6月18日付記事『「不満なら返品OK」なぜ増える? 』 http://www.nikkei.com/article/DGXNASGH14003_U1A610C1W02101/

 

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