086 「まるで写真 !」と話題の画家 福島尚さんのお話

皆さんは、福島尚さんという画家をご存知でしょうか?ご存知ない方は、そのお名前で画像検索していただけると、臨場感溢れる作品を見ていただけることでしょう。

 

昨年末「まるで写真!自閉症の画家が描いた表紙が話題に 作者の父に思い聞く」というタイトルの記事が、WEB上で公開され話題になっているので、彼のことをご存知の方も多いのではないでしょうか?

 

彼は、埼玉県日高市に住む46歳の芸術家です。記憶だけを頼りに下書きなしで手書きで絵を描いたり、模型を作ったりしています。そして、特筆すべきはその繊細さです。

 

今回話題になったのは、鉄道信号事業や交通情報システムなどを手がける「日本信号株式会社」が公開した第133期中間報告書の「首都圏」というタイトルの表紙絵です。そして、報告書の末尾には、次のように作者の福島さんの紹介が書かれています。

 

「知的障害(自閉症)で、幼少期に鉄道に興味をもち、列車や信号機、踏切等、鉄道に関する絵を描きはじめた。一度見た風景を詳細に脳裏に焼き付けて克明に描く能力を有し、記憶だけを頼りに下書きなしで写真のように精緻な絵を描く。現在は、地元をはじめ全国の鉄道をテーマに独自の創作活動を展開している」

 

ところで、私が所属しています慶應義塾大学 医学部 精神神経科学教室にも自閉症について研究されている先生方がおられますが、自閉症と一口に言ってもその症状はさまざまです。

 

福島尚さんの場合は、自閉症のなかでも「サヴァン症候群(savant syndrome)」という、ごく特定の分野に限って優れた能力を発揮する症状のようです。

 

1887年、イギリス医師ジョン ランドン ダウン(John Langdon Down)は、膨大な量の書籍を一回読んだだけですべて記憶し、さらにそれをすべて逆から読み上げるという、常軌を逸した記憶力を持った男性を報告しました。その天才的な能力を持つにもかかわらず、通常の学習能力は普通である彼を「idiot savant(イディオ・サヴァン=賢い白痴【仏語】)」と名付けました。*1

 

相対性理論の”アルベルト アインシュタイン”、発明王の”トーマス アルバ エジソン”、偉大な音楽家の”ヴォルフガング アマデウス モーツァルト”、芸術や科学等の幅広い分野で力を発揮した”レオナルド ダ・ヴィンチ”などもサヴァン症候群であったという説もあることからすれば、その症状に“賢い”という言葉を当てたこともうなずけます。

 

1988年公開のアメリカ映画「レインマン(Rain Man)」は、自由奔放な青年と、サヴァン症候群の兄との出会いと変化を描いたヒューマンドラマでしたが、この映画をきっかけにサヴァン症候群を多くの方が知ることになりました。

 

一説によるとこのサヴァン症候群は、何らかの理由で左能に障害があり、それを補おうと欠陥がない右能が障害を補っていることにより、右能が超人的な脳力を発揮していると言われていますが、その原因が先天性によるものなのか、何らかの理由で脳細胞の一部が損傷して発症するのかは明らかになっていません。そして、その割合は自閉症の方の約10%と言われています。

 

このサヴァン症候群の特徴は、福島尚さんのように風景を一見しただけで、写真のように細部にわたり完全に記憶することが出来たり、一度聴いただけで、聴いた曲を再現することが出来るなど映像記憶力や視聴記憶力に優れていたり、円周率などを記憶したり、多国籍な言語を自由に操るなど類稀なる能力があります。

 

話は変わりますが、南アフリカ共和国のパラリンピック陸上選手であり、両足切断者クラスの100m、200m、400mのランナー オスカー レオナルド カール ピストリウスは、ロンドン五輪で優勝したウサイン・ボルトやキラニ・ジェームスの記録と僅か1 秒台しか差がない世界記録保持者です。そして一説には、2020年の東京オリンピックの頃には、パラリンピックの記録が、オリンピックの記録を抜くのではないかともいわれています。

 

福島尚さんやオスカー レオナルド カール ピストリウスさんは、一般的には「障害者」と言われるでしょうが、障害どころではなく、健常者にはない能力を有しているわけですから、社会や企業もこのような才能を発掘し、生かすことが労働力不足の解決に繋がる一案なのかも知れません。

 

*1:Wikipedia日本語版『サヴァン症候群』参照

 

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