095 ビジネスにおいて目標達成できるヒトとできないヒトの違い

3月は年度末といわれるくらいですから、決算を迎える企業が多いことでしょう。目標達成できた企業も、そうでない企業もあると思いますが、今回はビジネスにおいて目標達成できるヒトとできないヒトの違いについて精神神経科学的に考えてみます。

 

さて、皆さんは目標を設定する場合にどのように考えて目標を設定しますか?アメリカの行動心理学者 アトキンソン(Atkinson, J. W.)は、人間の意欲を端的に表した公式「期待価値モデル」を発表しました。

 

アトキンソンは小学生を対象にした輪投げゲームを使った実験を行いました。実験では、子どもたちに色々な距離から輪を投げてもらい、それぞれの距離について、成功する確率をどのくらい感じるか、各自に答えてもらい、子どもたちに自由に輪投げゲームを楽しんでもらいました。

 

その様子を観察し、どの距離から輪投げをする回数が多いのかを観察しながら計測すると、子どもたちは、非常に難しいと感じる距離からの輪投げを行うことは少なく、また非常に簡単だと感じる距離からの回数も少なかったのです。子どもたちが一番多く選んだのは、成功の確率が50%と感じている距離からの輪投げでした。すなわち、主観的成功確率が低い行動の動機づけは低く、成功確率が高まるにつれ次第に動機づけも高まりますが、そのピークは主観的成功確率50%の行動であり、それ以上、成功確率が高まると動機づけは低下していきました。

 

この実験を基に、アトキンソンは、まず「期待」とは「自分にはこれができそうだ」という自信であり、「価値」とは「これをやることには意味がある」と定義付けました。たとえば、簡単な問題が並んでいたら「これなら自分にできそう」という「期待」がグッと上がるが、難問が延々と続けば「これをやって意味があるのか?」というように「価値」が下がる。つまり、期待は100でも価値が0になります。この場合、アトキンソンの期待価値モデルの公式だと「100 × 0 = 0」となり、やる気は「0」になり、テンションは続かないと解釈されるわけです。

 

このアトキンソンの期待価値モデルの公式によると、期待が50、価値が50の「成功率が50%の時にモチベーションが最も高まる」となります。そして、達成欲求が高いヒトほど自分にとって適切な課題である中間距離を選び、達成欲求の低いヒトほど成功の可能性が高い近距離か、明らかに失敗の可能性が高い遠距離の課題を選ぶと報告しました。

 

企業に於いて「目標達成」は重要なことですし、上場企業にとっては尚更のことでしょう。しかし、無理のない成功の可能性が高い目標設定であれば大きな成長は期待できません。中小企業であれば例え目標達成しなくとも、成長が期待できる「適切な課題である中間距離」を設定する方がいいと僕は考えています。

 

それと、目標達成に対してもう一つ大切な、社会心理学的要因があります。それは「自己成就予言(self-fulfiling prophecy)」または「予言の自己成就」という概念です。アメリカの機能主義社会学者 ロバート キング マートン(Robert King Merton)は、噂や思い込みのような根拠のない予言であっても、人々がその予言を信じて行動することによって、結果として予言通りの現実がつくられるという現象のことを「予言の自己成就」として発表しました。

 

例えば、ある銀行が危ないという噂を聞いて、人々が預金を下ろすという行動をとることで、本当に銀行が倒産してしまう、というものです。 このような社会現象のメカニズムを「予言の自己成就」と名付けました。 これは、ポズナン大学で社会学教授であったW・I・トマス(William Isaac Thomas)の「もし人が状況を真実であると決めれば、その状況は結果において真実である」という定理をさらに展開した理論といえます。*1

 

つまり「目標を達成します」というヒトは実際に目標を達成しやすく、「目標達成は難しいです」というヒトは実際に目標を達成しづらいということです。サッカー選手の中田英寿や本田圭佑が自信をもって大きな目標を語るいわゆる「ビッグマウス」は、自己成就予言の概念に基づく望ましい行動だといえます。

 

KGIはもとより、KPIによって個々の目標設定の明確化が叫ばれる現代に於いて、プレッシャーのある目標を設定し、その目標が達成できると信じ公言するという思考と行動が、あなたのビジネスを成功に導くことになるでしょう。

 

*1: Navigate, Inc『コトバンク> ナビゲート ビジネス基本用語集> 予言の自己成就とは』

 

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