101 多くの経営問題に悩む経営者に必要な心構え

前回はこのブログの100回目の記事でした。そして今回は200回に向けた新たなスタートだと考えています。この記念すべき101回目の記事では、僕のカミングアウトからお話を始めます。

 

僕は1997年にそれまで勤めていた会社を辞め起業をしました。当時はバブル崩壊後の不景気時期で、そんな世の中で創業初年度から黒字だった弊社は金融機関からの信用度も高く、低金利で多額の融資を受けることができました。

 

創業初年度ですから、スタッフも少なく多額の経費もありませんでしたがら、キャッシュフローの問題で頭を抱えることはなく、むしろ、多額の預金で、どのようにして金利以上の収益を上げるか?ということで頭を抱えました。

 

そして次第に、自らにリソースのない新規ビジネスに次々と手を出し、気がつけば銀行で眠る多額の預金も底をつき始めてきました。そして、お金がなくなる不安と、多額の返済を迫られる焦りに次第に悩まされ始めました。

 

これではいけないと、俯瞰的に思考を切り替え、再度自らのリソースに向き合い、既存のビジネスに再注力し、既存顧客との関係性を深める努力をしました。その甲斐あって、倒産をすることなく創業から19年になる現在も経営を続けることが出来ました。

 

しかし、ビジネスの世界はそんな Happyending なお話では終わらせてくれない厳しい世界です。最近では「売上が伸びなくなった」という新たな問題が生まれて来ました。

 

いつまでも先の見えない不景気な世の中で「売上が伸びない」というのは、まだまだ甘い話に聞こえるかも知れませんが、国税庁の民間給与実態統計によると「民間給与実態」は前年比+0.3%と増加しているそうですし、東京23区の家賃も前月比+1.3%と増加していることから考えても「売上が伸びなくなった = 将来は倒産」といえるのではないでしょうか?

 

弊社のような零細企業にとって人件費の0.3% 増、家賃の1.5%増などの経費増は決して小さいことではありません。そしてこんな思いを持つ経営者は、きっと僕だけではないでしょう。

 

優秀な人材がいない、借入返済が厳しい、自社の業界は斜陽産業だ、得意先の経営状態も良くない・・・と改善すべき経営課題が山積み状態の経営者は少なくないでしょう。そこで、僕が提案したいのが、教育心理学でいわれている「特恵効果」という心理効果を用いた経営指針です。

 

特恵効果とは、学習の場面で「苦手な分野で悩むより、得意とする分野を活かしたほうが、全体的な成績の伸びが上昇するという得意な面を活かす学習」のことをいいます。

 

経営に置き換えて考えると、人材、商品価値、財務、顧客と多くの問題を全て同時に解決しようとするのではなく、まずは人材に自信が持てるように「人材教育に力を入れよう」や、まずは業界が注目するような「画期的な新商品を開発しよう」といったように、自分の得意分野の一点の問題に絞り、その問題解決に注力するということです。

 

特恵効果の作用から、ひとつの突破口さえできれば、それが自社の自信やセールスポイントとなり、他の問題も改善されるだろうと考えることができます。

 

精神科医で臨床心理士でもある国際医療福祉大学大学院 和田秀樹 教授は、著書『大人のケンカ必勝法ー論争・心理戦に絶対負けないテクニック』の中で、ルノーの取締役会長兼CEO(PDG)、日産自動車の社長兼最高経営責任者(CEO)カルロス ゴーン(Carlos Ghosn)氏のケースを例に・・・

 

ゴーンさんは得意な購買コストの削減を目標に定めたことが賢いのである。「トヨタを抜きます」というようなできそうもないことを宣言するのではなく、「コストカットで黒字にします」というように、できることを宣言した。しかも、コストカットはゴーンさんの一番得意な分野だ。自分の最も得意とする分野に持ち込んで勝負をしたというところに勝利の秘訣があると言えよう。(中略)

 

勝負を自分の得意分野に持ち込めば勝てる確率は高くなるし、自分の不得意分野に持ち込まれれば負ける可能性は高くなる。したがって、自分の得意・不得意、長所・弱点を知っておくことは不可欠なことである。(中略)

 

自分にはどの分野の知識が豊富か、どの分野の経験があるか、どんな人脈があるかなどを検討し、得意な分野と苦手な分野を分類してみる。「計算には強いけど、アイデアを出すのは得意ではない」など、自分の能力特性をよく把握しておく。(中略)

 

ゴーンさんが、シェア拡大よりもコストカットを重視して成功してるのも、ゴーンさん自身が自分の得意な分野をよく知っていて、得意な分野で勝負をしているからであろう。得意分野を知っておくことは、勝負に勝つ確率を高める重要な条件だ。*1

 

・・・と論じています。

 

弊社の「売上が伸びなくなったという問題」は、次世代に継承する人材を教育できていなかったことが最大の問題でした。ですから弊社の場合、ひとつの突破口を「人材教育」に定め、最近では「優秀となりうる人材の確保と、優秀な人材への教育」に注力しています。そして、次世代に継承する人材を教育できれば、それを突破口として他の問題も改善されるだろうと考えています。

 

多くの経営問題に迫られる経営者にとって、ひとつの問題に的を絞ることは困難なことですが、この困難を越えなければ、問題を抱える経営者に明日はないと、僕は経験の中から学びました。

 

*1: 和田秀樹 2004年『大人のケンカ必勝法ー論争・心理戦に絶対負けないテクニック』PHP文庫

 

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