118 ユニクロが犯した価格設定の甘い罠の正体

2016年6月7日、2万以上の専門家が発信する総合ニュースサイト “まぐまぐニュース!” に「なぜ値上げした? 迷走するユニクロが犯した価格設定の甘い罠」というニュースが投稿されました。

 

記事の著者は、2001年から2007年まで株式会社ファーストリテイリングに勤務し、その後2007年から2013年ギャップジャパン株式会社に勤務した経歴を持つアパレル業界に強い株式会社クリエイションコンサルティング 佐藤昌司 代表取締役でしたから、確かな情報とコンサルタント業界では話題になりました。

 

記事によると、大塚家具やユニクロ、東京ディズニーリゾート、クリスピー・クリーム・ドーナツなどが「価格政策の失敗」で業績を悪化させている。

 

「ユニクロを運営するファーストリテイリングは、16年8月期第2四半期(9~2月期)の国内ユニクロ事業の営業利益が前年同期比28.3%減と発表しました。減収減益です。14年に秋冬商品を平均5%値上げし、15年の秋冬商品も平均10%値上げしました。2度に渡る値上げに対し、消費者は「割高になった」と判断し、客数が大幅に落ち込むようになった。*1 」とあります。

 

そして、その原因を「先に挙げたケースはいずれも安易に価格政策を決定したがために業績悪化に結びついたと考えられます。*1 」と論じています。さらに「物価上昇や原材料の高騰が正当なものでなければ、消費者の反感を買ってしまう*1 」と解説しています。

 

皆さんは、これらの企業の業績悪化の原因をどう思いますか?私は業績悪化の原因は「安易な価格政策」ではないと考えています。

 

話は変わりますが、店舗を経営されている弊社のクライアント様に集客目的で「安価でコーヒーサービスを始めてはどうか?」と提案したことがあります。そして、実際に販売を始めたところ集客に繋がったか否かは確かではありませんでしたが、お客様からいただくご意見は上々でした。

 

そもそも集客を目的にしていたので、コーヒー単体の利益を求めず原価ギリギリの価格設定をしていました。お客様の反応も悪くなかったので、そのまま続けても良かったのですが、しばらくサービスをストップして、お客様が価格を忘れた頃に値上げをしました。

 

すると、販売数量は約半分になってしまいました。こうなれば価格を戻したくなっても当然ですが「価格は高いままで良い」と判断し、高い販売価格で販売を続けました。その理由は、販売数量が半分になっても販売総額は、以前より上昇したからです。じつは、その値上げ金額は以前の3.3倍でした。

 

もちろん、集客目的の一環として始めたサービスですから、販売数量が半数になったことは望ましいことではありませんが、それでも、販売の都度少しづつですが以前の販売数量に近い数字に回復してきました。

 

このように書くと「なぜ3.3倍の値上げをしたのに販売数が下がらないのか?」と疑問を持つ経営者様も多いでしょうが、その理由はとてもシンプルです。

 

あらためて珈琲豆を徹底的に吟味し、手配ができる範囲で最も美味しいと思われる珈琲豆に変更し、さらに当初7ozだったカップを10ozにサイズアップし、カップのデザインも濃色の高級感のあるデザインに変更し、キャップ(フタ)もつけました。

 

そこまでしても、わずか数十円のコスト増でしたから利益総額も向上しました。

 

集客に対する効果のお話を横に置いて考えると、販売数が減って利益総額が上がれば、経営効率が良くなったとも考えられますから経営者にとっては嬉しいニュースです。

 

では、お話をユニクロに戻しますが「コーヒーを3.3倍に値上げした」ケースと「ユニクロが犯した価格設定」のケースでは、なぜ結果が違ったのでしょうか?その理由は非常にシンプルです。

 

ユニクロのケースは値上げする前と後で商品に大きな変化がありません。つまり商品価値に変化がありません。一方のコーヒーのケースは、質(味)・量・機能(フタ)・意匠に関して変化がありました。つまり、商品価値が飛躍的に向上しています。

 

「日銀の量的緩和などにより物価が2年で2%上昇した」あるいは「円安が進行したことで原材料が高騰している」などの値上げの理由は、ユーザーの視点から見れば関係のないことです。一方「質(味)・量・機能・意匠の品質向上」などの値上げの理由は、ユーザーの視点から見れば関係があることです。

 

こんなシンプルなことすら見えなくなるのがマネージメントの恐ろしさです。「値上げをしたければ商品価値を上げる」それさえ見落とさなければ、むしろ値上げは経営者にとっても、ユーザーにとっても望ましいことだと私は考えています。

 

皆さまのお仕事に当てはめて、商品やサービスの「価値と価格」について、一度お考えになられてはいかがでしょうか?

 

*1  佐藤昌司 (2016) 『なぜ値上げした? 迷走するユニクロが犯した価格設定の甘い罠』 まぐまぐニュース

 

118