122 「うちの商品はあらゆる人に売るオールターゲットだ」といっている経営者は失敗する!

先日、私の友人がSNSに「◯◯◯損保のCM、大っ嫌いです」とポストしていました。そしてそのポストには多くの共感メッセージが並んでいました。登場するタレントさんが嫌い、BGMが嫌い、コピーが嫌い・・・と、理由はさまざまでした。

 

客観的にそのCMの評価は悪いのか?気になって、そのCMの放送が始まる前と後の「◯◯◯損保」というキーワードでの検索回数を、Googleトレンドで調べてみました。その結果、CMが始まった時期から検索件数が激増しており、過去1年間と比較しても最大になっていました。

 

しかも「登場するタレントさんの名前」と「BGMを歌うグループの名前」での検索も増えており、損保会社にもタレントさんにも音楽グループさんにも良い結果が得られていたことが判りました。つまり一部の方からは不評なCMも、客観的に見れば不評ではないといえます。

 

お話は変わりますが、先日ある女優さんが出演されている映画のティザー(予告編)を、私はSNSにポストしました。その女優さんは現在47歳(映画撮影時は45歳)の方ですが、とてもチャーミングな方だと感じていました。そして、この映画がロードショーされることからすると、私と同様に現在47歳の女優さんに好感を持っている方も多いことでしょう。

 

ところが、090 「アラフィフー男性=熟メン」は、なぜモテるのか?に既に書いたことですが、国際人間行動進化学会の学術雑誌『Evolution and Human Behavior(進化と人間行動)』に掲載された、フィンランドのアボアカデミー大学の研究で、12,500人の男女にパートナーの実際の年齢と、最も魅力的あるいは理想とする年齢を質問した結果「男性にとっての理想の女性は何歳になっても“20代半ば”」と報告されています。

 

そして、その結果を招いた要因として「20代半ばの女性は繁殖力が高く、子どもを産んで男性の遺伝子を継承する可能性が高いからだ」と報告しています。この概念は、チャールズ ロバート ダーウィン(Charles Robert Darwin)の「種の起源(通称:進化論)」の「生物は遺伝子を継承する選択を選ぶ=自然選択」という概念に通じます。この報告からすると、私のような感情は客観的ではないといえるのかも知れません。

 

しかし、冒頭の「◯◯◯損保のCM、大っ嫌いです」とポストされた友人や、47歳の女優さんがチャーミングだと思う私の意見は、客観的意見ではないにせよ主観的に存在している意見であることは確かです。

 

昨年、とあるクライアント様が「当店のコンセプトはどんなお客様にでも対応できるように”コンセプトを持たないことがコンセプトだ”」といわれていて、それは間違っていると議論したことを思い出しました。実際に全ての方をお客様にするビジネスなど存在しないではないか?と私は考えていました。そして、残念なことに、そのお店は1年も経たないうちに閉店に追い込まれることになってしまいました。今思えば、もっと声を大にして議論するべきだったと反省しています。

 

マーケティングの領域では、このように「不特定多数の人々を同じニーズや性質を持つ固まりに分けること」をセグメンテーションといいます。日本マーケティング学会でご指導いただいている中央大学ビジネススクール 田中洋 教授は、セグメンテーションについて以下の通り論じておられます。

 

「セグメンテーションをして、わざわざ市場をせばめてしまう必要はないのではないか」という意見があります。確かに、市場は広大に見えます。そのすべての人に買ってもらえば、わざわざセグメンテーションなどというシチ面倒なことをしなくても済むし、より物事は簡単なように見えます。確かにある場合、セグメンテーションはさほど必要ないこともあります。たとえば、低価格品を販売するような場合です。この場合は、低価格に反応する消費者を相手にマーケティングを行えば良いので、あまりセグメンテーションを意識せずに行っても構わないように思えます。しかし低価格品をマーケティングする場合でも、セグメンテーションを行う場合がでてきます。それは、競合が出現した場合です。その市場が安売り品を売る業者で騒がしくなったとき、安売り競争を回避する必要が出てきます。こうしたとき、同じ低価格品市場でも、どのセグメントを選ぶかを考えなければならなくなります。

 

また「うちの商品はあらゆる人に売るオールターゲットだ」と言う言い方で済ませてしまう企業もあります。本当にそういうことがありうるのでしょうか。もちろん、同じ商品をすべての人に売るマスマーケティングは不可能ではありません。こうしたことを可能にする条件とは、競合する商品やカテゴリーが存在せず、市場を何らかの理由で独占できているときです。独創的な技術をもった企業や、法律や規制で守られた業種・企業がこれに当たります。しかし、こうした条件は現代ではなかなか成立しません。すぐに競合が出てきてその独占状態を崩そうとするからです。

 

また、実際にあらゆる人にまんべんなく売れている商品というものは極めてまれです。多くの商品は市場の中の一部の人にのみ売れています。それまでセグメンテーションを考えてこなかった企業が、考えなければならないのは、売り上げを増加させようとするときです。販売を拡張するためには、それまでと異なった新しいセグメントを発見して、そこに注力しなければなりません。彼らはどのような消費者であり、何を求めているのか、それを探ることを行わなければならず、こうした作業を行うためにはセグメンテーションが必要なのです。*1

 

要約すると「うちの商品はあらゆる人に売るオールターゲットだ」という思考は適切ではなく、競合が存在するビジネスにおいてセグメンテーションは不可欠であると解釈できます。

 

そしてセグメンテーションを決定したあとに問題なのは、設定したセグメンテーションに訴求する内容になっているか?という問題です。損保のCMの場合、私の友人には訴求しませんでした。つまり、私の友人はセグメンテーションには含まれていなかったのかも知れませんし、45歳の女優さんが主演の映画は、私をセグメンテーションしていたのかも知れません。

 

話は変わりますが、トレンドに敏感な女の子のためのキュレーションメディアである「MERY (メリー)」の記事に『白ワンピース×カラーカーディガンでドキッ♡男子受け◎なコーディネート!!』 というコンテンツがありました。その他にも”ワンピース” “カーディガン”でWEB検索すると『モテ服「カーディガン×ワンピース」の大人可愛い着こなしコーデ☆』などのコンテンツが沢山ありました。

 

なぜこんなことを書くのか?というと、私が”45歳の女優さんが主演の映画”に好感を持つ要因は何か?、あるいは自分が好感を持つ他の女優さんに共通要因はないのか?ということを考えた結果「ワンピース&カーディガン」という洋服のコーディネートが、一つの要因ではないかと仮説を立てたからです。

 

そして、その映画のティザー(予告編)を見返して見ると、45歳の女優さんが登場する11のシーンのうち、ワンピース&カーディガンのコーディネートが8シーンもあり、それ以外のコーディネートが僅かに3シーンしかありませんでした。さらに、私が好感を持っている他の42歳の女優さんが、自身のSNSページに最近ポストされているお写真10点の中でワンピースまたはカーディガンを着られている画像が5点(半数)もありました。

 

このブログを読んでいただいている皆さんにとっては、どうでもいいことに感じるかも判りませんが、54歳男性をセグメンテーションする場合「ワンピース&カーディガンのコーディネートに好感を持つ」という一つの可能性があることは明らかです。そして、こういう一見疑わしいような要因をテストし続けることが、多様化の進む現代において必要なマーケティング戦略であると、私は真面目に考えています。

 

*1 田中洋『マーケティングのキーコンセプト #48 セグメンテーション(市場細分化)segmentation』毎日新聞社

 

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