010 同窓会はなぜ楽しいのか?

先週、高校の同窓会がありました。皆さんも経験があると思いますが、同窓会って最高に楽しいですよね?じつは、そんな楽しくて懐かしい感覚にもマーケティングが関係しています。


マーケティングの専門家でもあまり知られていない理論に「レトロ・マーケティング」という理論があります。僕はマーケティング分野の研究者として、高齢化社会には有望な理論だと考えています。昨年の夏「STAND BY ME ドラえもん」という映画が流行りました。また、「明日のジョー」や「巨人の星」などの懐かしいキャラクターが登場するCMを見かける機会がありますよね? じつは、それが「レトロ・マーケティング」なんです。これらの映画やCMは40代〜50代の1960年〜1970年頃に生まれた男性をメインターゲットとしています。この世代の方々が昔懐かしい映像と一緒に提示された商品に対して、どこか親しみが湧いてきたりすることは自然なことですよね?


Holbrook & Schindlerは「レトロ」に近い言葉として「ノスタルジア」を「人が、若かったとき(成人期初期、青年期、幼少期、さらには生まれる前までも)、今より一般的だった(流行していた、ファッショナブルだった、あるいは広く流布していた)もの(人、場所、 物)に対する選好(一般的な好意、肯定的態度、あるいは好意的感情)」と定義づけています。そして、その定義をもとに、成城大学文芸学部 堀内 圭子 助教授は、論文「消費者のノスタルジア ー 研究の動向と今後の課題 ー」の中で「過去に思いを馳せるときに生じる肯定的感情経験全般」と論じられています。簡単に説明すると「若かったときに触れた人・場所・物に対して人は肯定的に感じる」ということです。


では、若かったときに触れた人・場所・物に対して、人はどんなものでも肯定的に感じているかというとそうではなくて、二つのポイントがあると論ています。一つ目は「過去にたくさん接触していること」です。つまり、どれくらい接触したかという「接触度」が高い方がより肯定的に感じるということです。その点からすると、学友は毎日会っていたし、学校は毎日通っていたわけですから、この一つ目のポイントに該当します。


そして、二つ目のポイントは「久しぶりである」ということです。レトロ効果が出るためには「ホワイト スペース」つまり、空白期間が必要になります。ですから、若いときから継続して会っている友人や、継続的に通っている街にはレトロ効果は出ません。その点からすると「STAND BY ME ドラえもん」がヒットしたからといって、すぐに「ドラえもん」の映画を上映してもヒットしないことが予想されます。


さて、お話を同窓会に戻しますが、同窓会はまさしく「過去にたくさん接触していること」というポイントと、「久しぶりである」というポイントの2つのポイントに該当しているわけですから楽しいのは当然です。ちなみに、京都大学 大学院教育学研究科 楠見 孝 教授の論文「The effects of aging on nostalgia in consumers’ advertisement processing」で、最も古き良き時代に憧れる年齢が、女性の場合30代〜40代で、男性の場合50代〜60代であるという調査結果が発表されています。つまり、同窓会で最も盛り上る時期が、女性と男性で10年程度差があるわけです。


この「レトロ・マーケティング」を皆さんのビジネスにどのように生かすかというと、例えば接客業でいえばターゲットとする年齢の方々が若かった頃に流行った小物を飾ったり、BGMをその頃の曲にしたり、或いはプレゼントを用意する際に、その時代に流行った物を用意するなどが考えられます。ただし「久しぶりである」ということがポイントですから、頻繁に行っては効力がなくなりますので要注意です。

 

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